優遇しているようで実は差別的 ―― 根強い専業主婦志向を生む「年収の壁」の矛盾 #昭和98年
サラリーマンの配偶者がパートで働く際、年収が一定の金額を超えると税金や社会保険料の負担が発生するため、「働き損」を避けようと労働時間を抑える「年収の壁」。人手不足が深刻化する中、政府はこの壁を崩すべく「年収の壁・支援強化パッケージ」を昨秋スタートさせた。長年、賛否があった「年収の壁」問題は、専業主婦やパート主婦の生き方や働き方にどのような影響を与えてきたのか。また、何が問題だったのか。少子化ジャーナリストの白河桃子さん、日本女子大学の周燕飛教授、作家の橘玲さんに話を聞いた。(ジャーナリスト・荒舩良孝、ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
白河桃子(少子化ジャーナリスト)=家庭での女性の負担軽減が必要
「『年収の壁』は多少の制度改正はあれ、本質的には何も変わっていない状態が長年続いていました。だから今回、岸田文雄首相はよく踏み込んだなと思っています」 少子化ジャーナリストで相模女子大学特任教授の白河桃子さんは、昨年10月から実施された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、そう語る。
例えば、サラリーマンの夫に扶養されながら妻がパートで働く。その際、妻の年収が「103万円」や「130万円」など一定額を超えると、扶養から外れて税金や社会保険料の負担が発生し、手取り額が減る。すると、妻はそれを避けるために勤務時間を調整し、収入額を抑えてしまう──。これが「年収の壁」だ。岸田政権はこれを解消すべく、妻の年収が一定額を超えても手取りが減らないよう、賃上げをしたり、社会保険料を実質的に肩代わりしたりした企業に対して、労働者1人あたり年間最大50万円まで助成するなどの制度を始めた。これが「年収の壁・支援強化パッケージ」と呼ばれる施策だ。 「年収の壁」は長らく賛否がありながら手がつけられてこなかった制度だが、白河さんはこれに見直しが入ったこと自体は評価する。一方で、これまでパートで働いてきた妻らの労働状況が大きく変わるかといえば疑問だと言う。 「一般的に、パートタイムで女性が就けるのは、飲食、宿泊など時給の低い労働集約的な仕事がほとんどです。時給の高い都市部では『年収の壁』を超えて働く人が増えるでしょう。でも、地方では相当長時間働かないとメリットを感じられないため、『年収の壁』を超えて働く人は少ないのではないかと思います」