発明したのは日本人!実は「1日1万歩を目標」に科学的根拠はなかった?「『万』が人が歩く様子に似ていたから」
米人気ドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』のとあるエピソードにて。介護施設の入居者で“ガター・ガールズ”というボーリングチームの熱心なメンバーでもあるイーニッド・フレンチは、胆嚢の手術を必要としている。でも、その前に心臓負荷試験を受けなければならないと言われてランニングマシンに乗ると、友人でチームメイトのルルが隣のマシンに飛び乗り、「私より先に1万歩をクリアさせるわけにいかない」と辛辣な声で言い放つ。 【画像】意外と知らない!「エクササイズに関するありがちな5つの誤解」 ※この記事はアメリカ版ウィメンズへルスからの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。
1日1万歩ってどこからきたの?
このエピソードは2016年のものなので、遠い昔の話に聞こえるかもしれない。でも、そうなると、1960年代に生まれた1日1万歩という目標は先史時代のものと言っても過言じゃない。そのため、健康に関する古いアドバイス(痛みは耐えるもの、女性は重い物を持ち上げるべきじゃない、卵は体に悪いなど)と同様、この目標は現在、多くの専門家によって見直されている。 1日1万歩という目標は、1990年代に米国の元公衆衛生局長官によって推進されて以来、数々のフィットネス系ウェアラブルデバイスに組み込まれ、国民の意識にも深く浸透している。そう考えると、この目標の見直しは遅すぎたと言っていいだろう。1日1万歩という数字はもともと、科学的根拠のないマーケティング戦略だった。ところが、その戦略があまりにも成功したので、この数字の起源が神話化し、大枠は似ているけれど詳細は似ていない複数の説が立てられた。
「1万という数字は、日本語の“万”という字が走ったり歩いたりする人の姿に似ていることから選ばれたのではないかと言われているが、確かなことは誰も知らない」
以来、私たちの脳裏に深く刻まれた1万という数字は、日本語の“万”という字が走ったり歩いたりする人の姿に似ていることから選ばれたのではないかと言われているが、確かなことは誰も知らない。 米テネシー大学運動生理学名誉教授のデイヴィッド・バセット・ジュニア博士によると、当時(1970年代のエクササイズブームによってマラソントレーニングやエアロビクスが大衆文化の一部になる前)、アクティブな人とそうでない人を隔てていたのは恐らく歩く量だけだった。アクティブじゃない人は1日4000~6000歩、アクティブな人はその2倍を歩く。そして、1万というのはキリがよく、野心的で達成感のある数字(ちなみに、米国立衛生研究所の研究員を含むヘルスリサーチャーたちからは、「9000歩では人々のイメージが湧きづらかったのではないか」「1日で1万歩は1週間で7万歩より響きが良い」という意見が出た)。 真の経緯が何であれ、山佐が1万という数字を選んだのは本当に天才的なマーケティング戦略だった。デビアス社の1947年のキャッチコピー「ダイヤモンドは永遠の輝き」がジュエリー市場を一変させた(それまでは他の宝石も婚約指輪のオプションとして人気だったが、このコピーによってダイヤモンドが愛の象徴となった)ように、「1日1万歩」という山佐のコピーは当時誕生したばかりの“誰でもフィットネス”市場を揺るがして、現在ブームとなっているウェアラブルデバイス時代の幕を見事に切って落とした。また、万歩計が発売された1965年の日本では、ウォーキング関連の団体が2つ発足している。その1つは日本ウオーキング協会で、イベントの参加者は(もちろん)万歩計を使って運動量を測定していた。