発達障害がある2児を育てる、シングルマザーの児童精神科医。精神科のハードルを下げて親の心に寄り添いたい【精神科医さわ】
小学生の娘2人を育てるシングルマザーで児童精神科医の“精神科医さわ”こと河合佐和先生。2024年6月には著書『子どもが本当に思っていること』を出版し、長女に発達障害があり不登校であることなど自身の経験についても語っています。 毎月約400人の親子の診察をするさわ先生に、笑顔で子育てするヒントを聞きました。全2回のインタビューの後編です。 【画像】二女が1歳のころ。
子どもに完璧を求めるお母さんに、少しずつ訪れた変化
――先生のクリニックを受診したケースで印象に残っているエピソードを教えてください。 さわ先生(以下敬称略) 数年前、音に対しての過敏さがあって学校に行くのが難しくなってしまった娘さんとお母さんが受診しました。中学受験をして進学校に入学したとても優秀な娘さんで、お母さんはなんとかして娘さんを学校に行かせたいと考えているようでした。 そのお母さんは、診察室に入ると「子どもが家の中でも音がうるさいと言う、親ともLINEでしか話さない、今日も朝起きられなかった」など、次から次へとネガティブな話が止まりませんでした。最初のころは診察時間の8割くらいはお母さんの娘さんに対する不安を聞くような状況でした。私はひととおりその話を聞いて共感を示しつつ、最後に「何か娘さんができたこととか、よくなったことってありますか?」と、ポジティブな面に視点を切り替えられるように声かけを続けました。先に娘さん、次にお母さん、と別々に話を聞くスタイルにして、2週間ごと、2年間通院を続けてもらいました。 ――先生はどんな声かけをしたのでしょうか? さわ お母さんは、きっと不安から娘さんのネガティブな面ばかりに注目してしまっていたんだと思います。でも、絶対にその子なりに成長している部分があるはずです。診察の中では「こんなことができたなんてすごいですね」とか「今日は自分で起きられたんですか、すごいですね!」と、ポジティブな視点を与える声かけを続けました。 ――通院を続けるうちに、その親子にはどのような変化がありましたか? さわ 娘さんは、通院し始めたころはお母さんに理解してもらえないことを苦しく感じていたようです。寝込んでしまって家から出られず、診察に来られないこともありました。でも通院するうちに、本人のペースで少しずつ変わり始め、自分が熱中できることを見つけて一生懸命取り組むようになりました。 当初はとても完璧を求めるタイプだったお母さんも、少しずつ変化していき、ネガティブな話は徐々に短くなっていきました。娘さんができるようになったことや、娘さんのいいところに目を向けられるようになり、娘さんがやりたいことや、選択を尊重できるようになっていきました。 2年たったある日の診察で「先生、私、この子もう大丈夫って思ったんです」という言葉を聞いたときには、私は思わず涙が出そうになりました。 その娘さんは、進学校から登校の自由度の高い学校に転校しました。今はのびのびと自分のやりたいことに取り組んでいるそうです。