約4億6600万年前の地球に「環」があった可能性 史上2番目の大量絶滅の原因?
太陽系のいくつかの天体は「環」を持っています。また、現在は消えているものの、過去には環を持っていたと推定される天体もいくつかあります。では、私たちが住む「地球」には、現在では消えてしまった環があったことはあるのでしょうか? モナシュ大学のAndrew G. Tomkins氏、Erin L. Martin氏、Peter A. Cawood氏の研究チームは、「オルドビス紀」の中期から約4000万年の間に形成された21個のクレーターの分布が赤道付近に偏っていることから、今から約4億6600万年前の地球には環があったのではないかとする推定を発表しました。 また3氏は、当時の地球で起きた大規模な気候変動の原因は、環の影響による日射量の変化であるとも推定しています。オルドビス紀には気候変動に伴う生物の多様化と、その末期に地球史上2番目に大規模な大量絶滅が起きたと考えられています。生物の進化と絶滅に、環の影響があるかもしれないという示唆は興味深い結論です。
■過去の地球は環を持っていたのか?
1610年にガリレオ・ガリレイが「土星」の環を発見して以来(※1)、私たちは太陽系のいくつかの天体で「環」を発見しています。中には、直径が約250kmしかない小惑星「カリクロー」のような小さな天体にも現役の環が見つかっています(※2)。また、「火星」や土星の衛星「イアペトゥス」などのように、現在では環を持っていないものの、過去に環を持っていた可能性があるとされる天体も見つかっています。 さらに、土星の立派な環も過去4億年以内に形成された可能性があるなど、46億年の太陽系の歴史の中では、環の存続期間は意外と短いのではないかとする研究もあります。このような背景事情を考慮すれば、私たちが住む「地球」に、たとえ過去の一時だったとしても、環が存在したとしても不思議ではありません。 Tomkins氏ら、モナシュ大学の3氏の研究チームは、地球に環が存在した時期の有力候補として「オルドビス紀」(4億8540万~4億4380万年前)の中期にあたる約4億6600万年前を挙げました。この時代から約4000万年の間、地層には隕石の破片や津波堆積物など、天体衝突の痕跡が世界中で見つかる「オルドビス紀衝突スパイク(Ordovician impact spike)」があることが知られています。これは、この後の4000万年の間に形成されたとされる、いくつものクレーターによって裏付けられています。 通常、このような天体衝突の急増は、小惑星帯から多数の天体が軌道を外れ、短期間に集中して衝突したものと考えられます。しかしこの場合、月や火星には、同じ時代に同様の天体衝突の急増が見つかっていないことが大きな謎でした。月や火星は、太陽系のスケールで言えばすぐ隣にあると言えるほど近いため、多数の天体が短期間に集中して太陽系の内側に侵入したならば、地球と同様に天体衝突が多発したはずであり、この矛盾は気になる所です。 地球に接近した天体が1個程度しかない場合でも、多数のクレーターを形成する可能性はあります。ある程度の大きさを持つ天体は、地球の近くにある「ロシュ限界(ロッシュ限界)」に入ると、潮汐力によって引き裂かれます(※3)。バラバラになった天体はあちこちに落下するため、多数の天体衝突が起きたように見えるでしょう。しかし、このように砕かれた破片が衝突する期間は、通常はかなりの短期間に留まります(※4)。衝突期間が4000万年という長期に渡るというのは考えにくいことです(※5)。 3氏はこれらの問題を解決するために、この時代に存在した環の存在を検討しました。もし、天体の接近する向きがうまく行けば、ロシュ限界で砕けたとしても、砕けた破片が地球を周回する環となります。環を構成する天体はすぐには落下しないため、4000万年という期間をかけて落下することも考えられます。