円安が再加速 円独歩安の様相 次は為替介入か日銀の政策修正か
円安が再び加速し、1ドル150円を突破した昨秋の水準に近づいています。今回の円安の特徴や想定される対応について、第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】日経平均なぜ3万円超え? 4つの視点から株価急上昇の要因を考える
政府は再び臨戦態勢に入ったか
6月28日現在、ドル円は144円前後で推移しています。この水準は政府・日銀にとって警戒水域でしょう。2022年に政府が最初に為替介入を実施した9月22日の145円にかなり接近しています。 政府は2022年と同様に臨戦態勢に入ったとみられます。実際、26日に神田真人財務官は「円安は急速で一方的」と語気を強め、為替市場にけん制を投じました。一方、当時と異なるのは輸入物価が下落に転じていることです。2022年は年半ばまでの国際商品市況における原油高、穀物高に円安が加わり、輸入物価が前年比4割強上昇したことで身近なモノの値上げが目立ち始め、マスコミ報道を中心に円安が槍玉にあげられていた局面でしたが、それに対して2023年は円安がインバウンドの呼び込みに繋がるといった恩恵を受けられることもあり、円安に対する政府の警戒感はさほど高くないかもしれません。
昨年秋の円安とは異なる背景
他方、2023年のドル円上昇は「円安」の色彩が強いという特性を踏まえる必要があり、これは日銀の政策態度に一定の影響を与え得ると考えられます。2022年は米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が強力な金融引き締めに踏み切る中で、ドルがユーロやポンドなど大半の主要通貨に対して全面高となる中で円が売られる構図、つまりドル高主導でした。それに対して2023年は円が独歩安の様相を呈し、クロス円(ドル以外の通貨に対する為替レート)の円安が目立っています。これはドル円上昇の発生源が「ドル高」から「円安」に変化していることを意味し、同時にそれはドル円上昇の理由として日銀の金融緩和の存在感が高まっていることを物語っています。 2022年はドルが全面高となる、お手上げ状態とも言うべき環境にある中、政府と日銀の協議において日銀の政策修正によって円安に歯止めをかける選択肢は採用されず、最終的に政府が為替介入に踏み切りました。そのような議論があったことは、黒田総裁(当時)が為替介入の約2カ月前にあたる7月21日の金融政策決定会合後の記者会見で以下のように発言していたことから推察できます(括弧は筆者)。 「今の円安というのは、実はドルの独歩高です。ユーロやポンドも大きくドルに対して下落しています。ご承知のように英国は 5 回金利を既に上げています。それからユーロも今月から金利を上げるということで、そういった通貨も同じぐらい下落しています。(中略)例えば、隣の韓国は相当金利を引き上げていますが、ものすごい勢いでウォン安になっていますので、(日本銀行が)金利をちょっと上げたらそれだけで円安が止まるとか、そういったことは到底考えられません。本当に金利だけで円安を止めようという話であれば、大幅な金利引き上げになって、経済に大きなダメージになると思います」