“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 政策修正めぐる5つの「Q」
日銀の突然の金融緩和政策の修正が波紋を広げています。10年物国債金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大するとした今回の決定は「突然」でした。なぜ突然だったのか。なぜ黒田総裁は利上げではないと強調するのか。住宅ローンなどへの影響はどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】コロナ禍に円安…でも意外に悪くない? 日本経済と日本株
◇ 12月20日、日銀は予想外にYCC(イールドカーブコントロール)の修正に踏み切りました。その背景を整理したうえで今後の金融政策を予想します。また事実上の利上げが住宅ローン金利に与える影響についても考えてみたいと思います。
Q1:政策修正はどんな内容だった?
今回の決定はあくまでYCCの「修正」であり、政策金利の誘導目標そのものを「変更」するものではありませんでした。短期金利は▲0.1%、長期金利は0%程度のまま据え置きです。今回、修正が加えられたのは10年金利の「変動幅」で、従来の±0.25%とされていたものが今回±0.50%へと拡大されました。念のため解説しておくと、日銀が定める10年金利の誘導目標は「0%程度」、その「程度」の定義が今回「±0.50%」に変更されたという具合です。 政策修正の狙いの一つに、市場機能の復活があります。2022年に入った後、世界的に長期金利が上昇していたのをよそに、日本の10年金利は日銀が上限と定める0.25%で頭打ち感となっており、本来の意味での“金融市場”から隔離された状態になっていました。通常、長期金利はその国の体温(≒経済・物価動向)を示しますが、そうした機能が著しく損なわれているとの指摘は多くあり、日銀自身もそれを自覚していたことから、長期金利の変動幅拡大に踏み切ったとみられます。
Q2:黒田総裁はなぜ「利上げでない」と強調?
長期金利の変動幅拡大は事実上の利上げに相当しますが、黒田総裁は記者会見で「利上げではない。金融引き締めではまったくない」と繰り返しました。換言すると、「事実上の利上げはしたけれども、それによって緩和的な金融政策が長く続けられるようになるのだから、そう考えれば金融引き締めではない、むしろ緩和的だ」という説明です。 こうした情報発信の仕方から判断すると、今後、日銀がマイナス金利の撤回を含めた金融引き締め方向への政策変更に踏み切る際、こうした巧みな説明で過去の発言と整合性を確保していくのでしょう。