「写真家ではなくカメラマン」フィルムからデジタルへ 時代は変わっても変わらない山岸伸さんの矜持
「人に嫌われたら終わり」一期一会の撮影
山岸さんが、一貫して大事にしているのが「人」であり「人とのつながり」だ。前述の『瞬間の顔』もやはり人と人とのつながりが積み重なって1000人に達した。
「人を撮るカメラマンなので、人に嫌われたら終わりじゃないですか。一期一会だと思って人を撮っているんですが、とにかく相手に不愉快な思いをさせないで撮っていこうというのが僕の気持ちです」 たとえば人を撮るとき、カメラマンとしては「この人がもしこんなポーズをやってくれたらウケるかもしれない」と思う場合もあるだろうが、奇をてらったことは一切しないのが山岸さんのカメラマンとしての矜持でもある。 「僕はそこはシンプルにこなしていく。『こんなふうに写っていて私も私たち家族もとてもうれしい』と言ってくださる方がいっぱいいて、それが僕の写真だなと思いながら撮っています。自分が相手を好きだったり相手が僕を好きになったりしてくれたら2回、3回、4回と、何度も会うことができますよね」
人とのつながりが「人以外」の撮影つなぐ
そんなふうに大切に育んできた人とのつながりが、新たな撮影へとつながってきた。2006年頃から撮り始めた北海道のばんえい競馬もその一つだ。対象は女性でも人でもなく、馬だ。グラビア撮影をメインにしていた頃から懇意だった、芸能事務所サンズエンタテインメントの野田義治氏からある日、「山岸さん、今度一緒にばんえい競馬でも見に行こうよ」と誘われたのが発端だという。ばんえい競馬とは競走馬がそりを引きながら力や速さなどを争うもので、古くから農耕などに用いられてきた体重約800~1200kg前後のばんえい馬(ばん馬)を使う。山岸さんは通い続けるうちに馬のさまざまな表情に気づけるようになっていった。
「朝の調教を見ているだけで面白くて写真を撮ったら、ものすごくいい。それでその後も通って撮るようになった。そうしたら政治家の中川昭一さん(故人)の目にとまって『帯広で馬の写真撮ってくれているんだって?市長に言っておくね』と。僕は競馬場で普通にカメラマンとしてみんなと同じ場所で撮っていたんですが、あるとき帯広市の市議会議員や議長が集まる食事会に誘われて『中川先生から、山岸先生が撮りたいものをちゃんと撮らせてやってくれと言われた』と。そこから撮影にご協力いただけるようになり、自由に撮影できるようになるまで10年ほどかかりました」