「写真家ではなくカメラマン」フィルムからデジタルへ 時代は変わっても変わらない山岸伸さんの矜持
世界遺産に登録されている京都洛北の賀茂別雷神社(上賀茂神社)の第42回式年遷宮撮影も然り。「人」とのつながりが根底にある。山岸さんは2014年に初めて挨拶に行き、仮遷宮から翌年秋の正(しょう)遷宮に至るまで約1年間、のべ32日間にわたり撮影をした。国宝や本殿の修復など、通常は立ち入ることができないところまで特別に撮影が許された。記録としての価値も高い貴重な作品となった。 「つい先日、上賀茂神社の宮司さまが来てくださって『まだ撮っていない所がいっぱいあるだろう。神社のことだったら撮りたければいくらでも言うから』と言ってくださるんですね」
今は「写真家だらけ」反骨精神も
人とのつながりを大切にすることのほかにも、山岸さんならではのこだわりがある。それは「写真家ではなくカメラマンである」という思いだ。
「たとえば写真家は、1年間自費で旅をしてどこかへ行って写真を撮って発表しました、と。あとでそれが売れるかどうかはわからない。だけどそういう挑戦をしていくのは写真家ですよね。僕は商業カメラマン。仕事を依頼されてお金をもらって写真を撮っているわけです。僕が写真家ではなくカメラマンだと言い切るのは、昔みなさんがいい仕事をしているときに僕は細かい仕事でも何でもやってきたんです。だから『俺は商業カメラマンでいいや』と。当時はカメラマンと名乗る人がやたら多かったんですが、今は逆でカメラマンと名乗る人が少なくなって写真家だらけ。石を投げれば写真家。そこにちょっと反骨精神もあるんです」 依頼に基づいてお金をもらって写真を撮る。山岸さんの言葉にはプロフェッショナルとしてのプライドがほとばしる。実は山岸さんの名刺に肩書はない。「山岸伸」として活動をしてきた。 「本来は肩書なんてどうでもいいことなんです。肩書なんてなくても写真が良ければどこかに買ってくれる人もいるだろうし、雑誌に載ったりもするんじゃないですか。自分が写真を残すということは自分の歴史だから。撮った写真は自分のものだから。それで生きてきたのは間違いないし、これからもそれをいっぱい積んで死んでいきたいと思っています」
…… 山岸伸(やまぎし・しん) ポートレート撮影をメインに広告からグラビアまで幅広く活躍。400冊を超える越える写真集を世に送り出した。2006年頃から北海道ばんえい競馬の撮影を開始、2007年からは写真展『瞬間の顔』をスタートさせ、15年かけて1000人に到達。現在も広告、ポスター、カレンダー、各レコード会社のジャケット撮影、各出版社写真集、各出版社表紙撮影、グラビア撮影、DVD制作など多方面で活躍中。(公社)日本写真家協会会員、(公社)日本広告写真家協会会員、とかち観光大使。