このお仕事って、甘い世界じゃないんだな――森七菜が「割とグチャグチャ」な日々を経て手にした新しい「強さ」
俳優、声優、歌手と、さまざまなフィールドで活躍を見せる森七菜(20)。2020年にはホフディランの「スマイル」をカバーして大ヒットさせたが、そのイメージ通り、画面越しの彼女は常に笑顔を輝かせる。しかし、本人に会ってみると、これまでの歩みについて「わりとグチャグチャだった」と述べるように、決して順風満帆ではないという。自信のなさからくる苦悩、自らの力の及ばないところでもたらされる事柄に振り回されるなど一筋縄ではいかない日々。それでも「仕事のために生きている」と語る。まもなく21歳を迎える森の現在地とは。(取材・文:田口俊輔/撮影:河邉有実莉/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
私にはアイデンティティーがない
「いつでもスマイルしようね/とんでもないことがおきてもさあ」 2020年、日本をも覆ったコロナ禍。閉鎖的で先が見えない日々は長きにわたり続き、人の心が暗く沈むなか、CMで森が披露した「スマイル」の真っすぐな言葉、そして彼女の溌剌(はつらつ)とした歌は、多くの人の耳と心に届いた。 どれだけ彼女の歌が突き刺さったかは、YouTubeでの再生が 3700万回以上(2022年8月現在)という数字が物語る。取材中もその数字は伸び続け、そのことを森に報告すると「え、すごっ!!」と、まるで他人事のように目を丸くした。
「これだけ多くの人に聴いていただけるとは、歌った当時は全然想像できませんでした。以前、友だちが、いろんな人がTikTokやSNSで、『スマイル』を使って動画を作っているよと教えてくれて。気になりいろいろ調べると、『<スマイル>のお姉さんみたいになりたい!』と言っている小さい子の動画を見つけたんです。もう、すごく驚きましたし、すごくうれしくなりました。このとき、もっと人に喜んでもらえる歌を歌いたいと思うようになりました」 中学3年生の夏休みに地元・大分でスカウトされ、その約2カ月後には行定勲監督が手掛けたウェブCMでデビューを果たした。その後も数々のドラマや映画に出演し、2019年には新海誠監督作品『天気の子』のヒロイン・天野陽菜役で声優デビューを果たし、2020年の「声優アワード」で新人女優賞を受賞。翌2020年には『カエルノウタ』で歌手デビューと、この6年の歩みはまさに多彩かつ華やか。この現状について話が及ぶと、「う~ん……」と、なぜか考え込んでしまった。