95歳、入院していた認知症の父が退院、自宅に戻らず老人ホームに入る覚悟を決めた。引っ越しの手伝いに、息子が来てくれた
◆パトカーがやってきた ホームの敷地内にはデイサービスセンターがあり、週に2回利用している。そこでは話し相手もできて、父はホームの生活を楽しんでいる。私は仕事の都合がつくときは、午後3時か4時にコーヒーを差し入れて、一緒に飲みながらおしゃべりをする。 ある日、いつものようにホームに行くと、受付の人に呼び止められた。 「お父様、20分ほど前に近くのスーパーに行くとおっしゃって出かけられました」 「え? 近いから、もう戻っていてもいい時間ですよね?」 私は外に飛び出して、歩道に倒れている人がいないかを確かめた。スーパーの看板は見えるが、人の姿はない。スーパーのレジに聞きに行くと、ハンチングを被った高齢の男性が来ていたが15分ほど前に店を出たという。慌ててホームの駐車場に戻り、車に乗って周辺を一周したが、父を発見できなかった。 私はハザードランプを点けてスーパーの前に車を駐車したまま、走って周辺を探した。するとけたたましくサイレンを鳴らしたパトカーが私の車の後ろに止まった。駐車違反で捕まった!と思い、息を切らせて車の横に戻り警察官に謝った。 「すみません! 父が行方不明になって急いで探していたものですから」 警察官の返事は予想外のものだった。 「あぁ、良かった。お父様を保護している方から通報があって駆けつけたところです」 父はなんと、スーパーの西隣のマンションのロビーのソファに座り、保護してくれた人が買ってくれたペットボトルのお茶を飲みながら談笑している。私は拍子抜けすると同時に怒りが沸いてきた。保護してくれた方にお礼を言ってから、父に文句を言った。 「なんでホームから一本道なのに、よそのマンションのロビーに座っているの!」 父は悪びれもせず言ってのけた。 「俺が方向音痴なこと、おまえはよく知っているだろう。おまえが子どもの時、遊園地に連れて行こうとして遠出したら、着いたところはなぜか炭鉱だったよな」 認知症のせいでも徘徊したわけでもないのは、娘としてはわかっているが、ちょっと気を許していた感は否めない。それからは、ラミネート加工した所在地と電話番号を書いた紙を老人ホームからもらい、父の財布と携帯電話に入れて備えている。 (つづく) 【漫画版オーマイ・ダッド!父がだんだん壊れていく】第一話はこちら
森久美子
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