最古人類記録が変わる?新発見の化石が開けたパンドラー足跡化石の謎(下)
地理的なギャップ
今回の足跡化石の研究において興味深いと考えられる、第二の点は、地理的要因だ。発見されたのは、なんと「ヨーロッパ南部」 ── 現在のギリシャ沖に浮かぶクレタ島だ。 ヨーロッパ各地において、中新世の地層から今のところ人類の祖先にあたる化石(骨格と足跡や石器など含む)は、「ほとんど」見つかっていない。一般的に人類の祖先はアフリカ大陸において、初めて出現し、約180万年ころヨーロッパそしてアジアへ渡ってきたというのが通説だ。いわゆる「アウト・オブ・アフリカ説」というアイデアだ。 注:「ほとんど」と断ったのは、最近、こうした事実を覆す可能性のある「初期のヒト亜科(Homininae)」(ゴリラ系統とヒト系統の祖先か近縁にあたる種)アゴの化石が、ブルガリアなどにおいて確認されたからだ(こちらの記事参照)。 -Jochen Fuss, Nikolai Spassov, David R. Begun, Madelaine Bohme. Potential hominin affinities of Graecopithecus from the Late Miocene of Europe. PLOS ONE, 2017; 12 (5): e0177127 DOI: 10.1371/journal.pone.0177127 -Madelaine Bohme, Nikolai Spassov, Martin Ebner, et al. Messinian age and savannah environment of the possible hominin Graecopithecus from Europe. PLOS ONE, 2017; 12 (5): e0177347 DOI: 10.1371/journal.pone.0177347 ちなみに、現在知られている限り最古の人類系統の化石は、アフリカのチャドで発見されたサヘラントロプス(Sahelanthropus)の部分骨格で、約700万年前のものだ(注:チンパンジーと人類の共通の祖先に近いと考えられる)。エチオピアにおいて見つかった約440万年前のアルディピテクス(Ardipithecus)や、ケニア産のオロリン(Orrorin:610―580万年前?)など初期のヒト亜族と考えられる化石も、人類アフリカ起源説を支持する重要な証拠と、一般に今のところ考えられている。 しかしヨーロッパ南部のクレタ島からこれだけ古い人類系統の種と考えられる足跡化石が見つかっては、開いた口もふさがらない。富士山のふもとで雪男に遭遇しても、生きた三葉虫を瀬戸内海の砂浜で捕まえても、(おそらく)ここまで驚かないだろう。 ※Bohmeは正しくはoの上に‥が付きますが、システム環境でoで表記されています。