最古人類記録が変わる?新発見の化石が開けたパンドラー足跡化石の謎(下)
最古の人類記録の可能性?
クレタ島で発見された足跡はトータルで50個以上になるそうだ。足の平の大きさ(=靴のサイズのことだ)は、5―20cmとばらつきがある。複数の個体によって残された可能性があるかもしれないが、小さなものは不完全な足跡のサイズも含まれているそうだ。しかし現代人の成人のモノと比べれば、かなり小型だといえそうだ。 足の裏の大まかな輪郭は、霊長類(=霊長目:Primate)の種に属するとみて間違いないようだ。しかし、研究チームによると一連の足跡は、外側の指がかなり短めと指摘されてる。(特に小指と薬指の形態が、論文内のFig.9の写真においてよく分かる。) この特徴は、「ヒト属(Homo)のものとは異なる」そうだ。試しに自分の足の裏をチェックしてみていただきたい。人指し指から小指は比較的同じ長さだ(ホモ・エレクタスやネアンデルタール人などの種も、非常に似た指付きをしているそうだ)。 大まかな足の裏の形の描写だけでは、他の研究者を説得することに限りがある。この論文の研究グループは様々な足跡の数値(計測)を、ヒトを含むさまざまな他の霊長類のものと比較した。今更ことわるまでないだろう。グラフや統計学上の手法を用いた「データの数値化」は、現在のサイエンスにいて欠かすことのできない、重要なアプローチの一つだ。(興味のある方は、是非、論文内のFig. 13のグラフをチェックしていただきたい。) こうしたデータをもとにした結果を通し、この足跡化石は我々に何を語りかけてくれるのだろうか? 今回の研究チームは「二つの点」を、結論としてまとめている。 第一の点は「570万年前の記録」という事実だ。この年代は「最古記録の人類(homininの種)」のものである可能性がある。人類といっても、「ヒト族(Hominini:チンパンジーとヒト属共通の祖先を含むグループ)」か「ヒト亜族(Hominina:アウストラロピテクスとヒト属共通の祖先を含むグループ)」の可能性を指摘している。 注:こうした系統樹における霊長類主要グループの進化関係は、以前にまとめたこちらの記事と図を参照していただきたい。 570万年前ということは、中新世(Miocene)後期にあたる。「まさか、いくらなんでも、、、。」こうつぶやく読者の方はいるだろうか? この反応は正解だ。これまでに知られている最も古い「二足歩行」と思われる足跡の化石は、実に「370万年前」のものだからだ(Leakey & Hay 1979)。その差はざっと200万年。この時代におけるギャップは、非常に大きい。(その空白の長い間、人類は冷房のよく利いたコーヒーショップで、休憩でもしていたのだろうか?) -Leakey, M.D., Hay, R.L., 1979. Pliocene footprints in the Laetoli Beds at Laetoli northern Tanzania. Nature 278, 317‐323.