「溶岩流」果たしてどこまで到達するのか…「富士山が噴火した」ときの「衝撃的な被害規模」
2012年2月10日の朝、富士山の北西麓(山梨県側)の標高1760m(3合目付近)の道路端で、道路管理の関係者から「地面から湯気のようなものが出ている」という通報から、気象庁火山課などが急遽確認に出向く、という事態が起こりました。幸いに、こうした現象自体は4月にはおさまり、ただちに噴火に結びつくような現象ではないことが確認されました。 【画像】Nスペ取材班による福島第一原発の「誰もが死を覚悟した壮絶な現場の全貌」 しかし、その前年3月11日にはあの「東日本大震災」が、またその4日後には富士宮市で震度6強を観測する「静岡東部地震」が起こっていたこともあり、富士山が噴火する前触れではないかと、人々を震撼させました。 噴火による被害には、火山灰や溶岩などの噴出物が人間にもたらすさまざまなものがありますが、富士山が噴火した場合、その被害の規模は計り知れません。富士山が噴火した場合、どのような被害が想定されるのか、今回は、溶岩にスポットをあてて見てみましょう。解説は、『富士山噴火と南海トラフ』の著者で、京都大学名誉教授の鎌田 浩毅さんです。
地球の血液は「サラサラ」と「ドロドロ」
溶岩とは、地下にある高温の溶けた岩石であるマグマが、液体のままで地表に流れ出たり、地表の近くまで貫入したものをいう。 液体の溶岩は、地表に出た地点から標高の低いほうへ流れる。正確には、地面の傾斜が最も急な方向へと流れるのである。地形に沿って、かなり遠くまで流れ下ることもある。 溶岩の流れ方は「粘性」によって決まる。粘性とは「粘り気」を表す言葉である。粘性が大きいとドロドロと流れ、小さいとサラサラと流れる。水は粘性が小さい液体の代表で、蜂蜜は粘性が大きい液体の例である。 粘性を決める要素には、温度と化学組成がある。 まず温度が低いほど流れにくくなり、高温だと流れやすくなる。たとえば、天ぷら油を熱していくとサラサラになるのも、同じ現象である。高温になるほど粘性が小さくなる理由は、原子の振動が激しくなるからである。激しく動くと溶岩全体が流動しやすくなる。 これに対して、低温では振動が減るので、動きがにぶくなる。溶岩は地表に出て流れはじめると冷えていき、温度が下がるにしたがって粘性が増し、そのうち停止する。 また、粘性に影響する化学組成としては、溶岩に含まれている二酸化ケイ素の量が重要である。二酸化ケイ素は粘り気のもとであり、これが多いと粘性が大きくなる。反対に二酸化ケイ素が少ない場合は、粘性が下がる。マグマの中で二酸化ケイ素は互いに手をつないで、網目状の構造を作っている。このため二酸化ケイ素が増えると、ドロドロとしてきて流れにくくなるのだ。