「溶岩流」果たしてどこまで到達するのか…「富士山が噴火した」ときの「衝撃的な被害規模」
溶岩流の可能性マップ
これで、溶岩流がどこまで達するか、到達範囲を示す地図が作成できる。このような図は「溶岩流の可能性マップ」と呼ばれ、「時間」と「範囲」の2つの情報が盛り込まれる。すなわち、噴火が始まってから何時間後に溶岩がどこまで流下するかがわかるようになっているのだ。 まず、噴火の大規模、中規模、小規模ごとに溶岩流のマップを作り、それらを合成する。それぞれの到達時間ごとに滑らかな線で結び、溶岩流が最も早く到達する時間を示したのが溶岩流の可能性マップである(図「溶岩流の可能性マップ)。 溶岩流の可能性マップでは、(図「ハザードマップの想定火口範囲)の想定火口範囲が中央に示され、その周囲に時間ごとに区切られた溶岩流の想定到達範囲が表示されている。時間は2時間から7日間までの6段階に分けられ、さらに、最終的な到達範囲が描かれている。この時間は最大で約40日とされている。 ただし、いま述べたように可能性マップはすべての情報を総合した図なので、どのような規模の噴火がどこから起こるかをよく考えながら解読しなくてはならない。
ハザードマップから見えてきた「危機」
では、こうしてできた溶岩流のハザードマップから何が読みとれるだろうか。 一般的には溶岩流は、流れる速さがそれほど速くないため、溶岩の流出が確認されてから避難を始めても余裕がある場合が多い。 しかし溶岩流の可能性マップを見ると、山麓にある火口の近くなどでは、溶岩が短時間で到達する可能性がある。また、裾野の富士吉田市や御殿場市の一部には、24時間以内に溶岩が流れてくる可能性がある。これらの場所では、速やかな避難が必要となる。このように、地域ごとに分けて溶岩流に対処すべきであることが、可能性マップからわかるのだ。 また、緊急に避難が必要でない地域においても、噴火が長く続いて大量の溶岩が流出した場合には、避難範囲を拡大する必要が生じる。とくに大規模噴火では、噴出総量も噴出流量もともに増えるので、注意が必要である。この場合の避難範囲は「最大到達範囲」が目安になる。 しかし、溶岩流のハザードマップを見て多くの人が気になるのは、溶岩が南へ下った場合、東海道新幹線や東名高速道路が寸断されてしまう可能性があることだろう。国家の危機ともいえるこの事態を、避けることはできないのだろうか。 実は、溶岩の流路自体を変えてしまう、という取り組みも実際に行われ、なんとそれが成功した例もある。続いては、自然の脅威に立ち向かった例をご紹介したい。 溶岩の流路自体を変えてしまう、という驚きの取り組みは、どのような例があるのでしょうか? その成否はいかに?……〈「溶岩流」果たしてどこまで到達するのか…「富士山が噴火した」ときの「衝撃的な被害規模」〉は、下の【関連記事】からどうぞ! 富士山噴火と南海トラフ――海が揺さぶる陸のマグマ
鎌田 浩毅(京都大学名誉教授)