〈目撃〉タコがいろんな種類の魚たちを率いて狩り、タコパンチで「喝」も、驚きの研究結果
サンゴ礁のブルドーザー
とはいえ、すべての専門家がサンパイオ氏の論文に同意しているわけではない。 「エドゥアルド氏が見たものを、ほかの研究者がみんな見逃していたのでしょうか?」と問うのは、タコの認知能力を専門とするカナダ、レスブリッジ大学のジェニファー・マザー氏だ。 マザー氏は、狩りをするタコを「ブルドーザー」に例える。タコが周囲を引っかき回すと、そこにいた生きものたちが驚いてあらゆる方向に散り散りになるからだ。 マザー氏の研究を含む過去の研究では、ほかの捕食魚がタコの捕食行動に依存し、その後をついて回ることが示唆されている。例えば、「魚たちはしばしば、ブルドーザーから逃げてくる生きものを先頭に立って待ち受けます」 マザー氏は今回の研究には参加していないが、タコの食べこぼしにあずかろうと近づきすぎた魚をタコが叩いたり、逆にスズメダイがタコを攻撃したりする様子を観察したことがある。 さらにマザー氏は、魚がいる場所ではなく、どこを向いているかに注目すべきだと考えている。協力して狩りをするチームのメンバーなら「タコとは別の方向を向いていて、餌をあさろうとする魚はタコの方を向いているはずです」 しかし、英ケンブリッジ大学の客員研究員でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーのアレクサンドラ・シュネル氏は、そう単純なことではないと話す。 「たとえタコが先頭に立っていなくても、ほかの魚が群れとどう関わるかは、タコが獲物を追い出す能力に影響されます」 さらに研究を重ねる必要があるが、お互いの利益のために魚とタコが協力することを学んだと考えるのは、そう強引なことではないという。なお、シュネル氏もこの研究には関わっていない。 タコが岩やサンゴの上にしばらく腕を広げているのは、小さな魚などの獲物を捕らえたサインだと論文の著者は言う。対してマザー氏は、タコは単に獲物が残したものを確かめているだけかもしれないと異を唱える。