多くの人が「勘違いしている」かもしれない…登山のトレーニングは「事故を起こさないため」という、じつに納得の事実
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】登山は全身運動…「ハイキングレベルでも、ジョギング並みの運動強度」がある 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、どのようなことを目標にトレーニングすべきか、そのために大切するべきことについて解説します。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
トレーニングの原則
登山者がトレーニングを行う際に、頭に置いておくべき基本原則を紹介しておきます。 特異性の原則:トレーニングの際には、登山に似た運動様式で行う必要があること。ウォーキングが登山時のトラブル防止に役立っていない理由は、この原則を満たしていないためです。その結果として、次に述べる過負荷の原則も満たせなくなってしまうのです。過負荷の原則:トレーニングの効果は、一定以上の負荷をかけることによって、初めて生じてくること。負荷には、(1)強度、(2)時間、(3)頻度の3種類があります。(1)は運動の強さ、(2)は1日にどれくらいの時間(量)を行うか、(3)は1週間に何回行うか、という意味です。前回の記事で触れたように、ウォーキングが山でのトラブル防止に役立っていない理由は、(1)の負荷が小さすぎるためです。階段昇降が役立っていないのは、(2)の負荷が小さすぎるためです。個別性の原則:同じトレーニングをしても、過去のトレーニング歴、現在のトレーニング状況や生活状況、また遺伝的な要因(素質)なども関係して、その効果の現れ方には個人差が生じてくるため、万人一律のトレーニング方法はないということ。本章の冒頭で「このメニューをこれだけやればよい」という説明の仕方ではうまくいかない、と述べた理由はここにあります。可逆性の原則:トレーニングをすれば体力は改善するが、やめれば元に戻ってしまうこと。何らかの理由で数ヵ月くらいのブランクが生じると、体力はかなり低下してしまいます。たとえば、無雪期にはよく山に行くが、雪のある時期になるとあまり行かなくなる人では、翌春になると体力が大きく低下してしまいます。 これらの原則を、いまここで見ただけでは、実感がわきにくいと思います。これが役立つのは、自分で考えたトレーニングをしている場合に、本当にこのやり方で自分の登山に役立つのだろうか、と自問自答するときです。 あるいは、トレーニングをやってみたがうまくいかなかった場合に、なぜだろうかと考えるときです。この4原則を頭に置いて、自分でトレーニングの試行錯誤をして、少しずつ自分の正解を見つけていくことが必要になるのです。