映画『きみの色』山田尚子監督×はくいきしろい対談。嫉妬し合うふたりが語る、色と光の表現
影の部分も明るさを上げ、光を描く
――トツ子が見ている世界だけでなく、作品全体の色彩設計としても同じような意識だったのでしょうか? 山田 そうですね。本当はきっと、光を描くにはしっかり影がないと成り立ちにくいものだとは思うのですが、今回はその影の部分まで明るさを上げていくような作業でした。光の部分はどんどん明るくなって、露光がかなり上がっているイメージです。窓の外の光なども白飛びしていくし、とにかく明度を上げる方向でやっていました。 ――はくいきしろいさんは『きみの色』の光や色彩で印象に残っている点はありますか? はくいきしろい いまおっしゃった通り、明度を上げて彩度を下げている、という印象がすごくありました。普通に考えたらさっき言われていたように影を作ると思うのですが、光を含めた空気や空間をフィルムの中で作ろうとしていらっしゃるのかなと感じました。 配信されたばかりの『Garden of Remembrance』も拝見したのですが、あれは2年前くらいに作られている? 山田 そうなんです。 はくいきしろい 『Garden of Remembrance』も、背景のレイアウトの線が三原色に分かれたりしてハレーションを起こしていて、すごく面白いなと思いながら見ていました。このときから、やはりそのような光の空間をフィルムとして作ろうとしていらっしゃって、その流れが『きみの色』にも反映されているのかなと思いました。 山田 たしかに『Garden of Remembrance』は、レンズ効果みたいなものを使わない代わりに、背景の滲みやカメラでいうところのボケを色収差で表現していました。本当に三原色を用いてずらすことによって滲んでぼやけているように見えないかなと思いながらやっていたので、そう言っていただけてうれしいです。 ――『Garden of Remembrance』も画面の中に光が満ちているっていうような雰囲気がありますね。『きみの色』では「印象派の絵画のように光を分解して描く雰囲気を目指した」と過去のインタビューでおっしゃっていましたが、具体的な作品のイメージなどはあったのでしょうか? 山田 それは秘密です(笑)。でも子供のときは、なぜか印象派の作品ってそんなに興味がなかったんです。光を分散させて、色を集めて、引いたときに緑に見えるように描く、といった手法は面白いなと思うのですが、子供のときはもっとアヴァンギャルドなものが好きだったのか、「きれいなのはわかるけど……」という感じでした。でも『きみの色』を作ることになり、どうしよう?って考えたときに、印象派ってこんなに素敵だったんだなって気づけたというのはあります。それまでは自分の好きなアート作品からはいちばん遠いところにあった気がするので。 はくいきしろい 印象派のどのあたりの作家に惹かれたんですか? 山田 学校で習うような、(クロード・)モネとかですね。実物を見ると本当にすごく良いんですよね。なので反省しきりです。