映画『きみの色』山田尚子監督×はくいきしろい対談。嫉妬し合うふたりが語る、色と光の表現
焦点を当てたのは、トツ子の胸が踊る色
――まず、はくいきしろいさんは『きみの色』をどのようにご覧になりましたか? はくいきしろい 作品を見て同じように感じた人も多いかもしれないのですが、見た人が「自分の映画だな」って感じるような映画なのかなと思いました。よく劇場アニメなどだと、SNSで「ネタバレ禁止」って言われたりしますよね。早く見に行って、何も知らない状態で衝撃を食らって、それを後でSNSに投稿して、また言葉のやりとりのなかでみんなで熟成させる、というような文化もあると思うのですが、山田監督の作品はそういったものと少し違った印象があって。映画を見ているその人、個人にすごく向けられた作品なんだなと思っていました。今回の作品でもまた、そのことを強く感じました。 山田尚子(以下、山田) たしかに私は映画でもなんでも、作品のネタバレは気にしないタイプかもしれません。目指しているところや、自分が作品を見るときに気にしている部分がそこじゃないんだと思います。なので、いまそういうふうに言っていただいて、少しほっとしました。本当に皆さんのタイミングで、いつでも出会っていただけたらいいなっていう感じの作品かなと私も思っています。 ――『きみの色』のトツ子は、「人が色で見える」というキャラクターですが、今作ではなぜ主人公をこのようなキャラクターにしたのでしょうか? 山田 まず今回はオリジナル作品なので、どのような感触の映画にしていこうか考えました。私は映像や音楽、色などから勝手に都合よく何かを受け取るのが好きなので、それを作品としてやらせてもらおう、と思ったのがきっかけでした。観る方の世界の見方とか、歩んできた道によっていろいろな受け取り方ができるような感覚をトツ子という存在を通して描いていきたいと考えました。 ――前作『リズと青い鳥』でも2つの色が合わさって互いの色が滲んでいくという描写でキャラクターの心情や関係性が表現されるような場面がありましたが、キャラクターを色でとらえるような感覚は以前から監督のなかにあったのでしょうか? 山田 どうだろう……。いままで携わってきた作品は、自分が何かを感じる前に、キャラクターの持ち色があったりもしたので、また少し見方が違うかもしれないです。『リズと青い鳥』のときは、青と赤という2つの色が混ざり合って紫になっていくような、その瞬間みたいなものを描いていたんですけど、今回は光に焦点を当てたかったので、重なれば重なるほど色が明るくなって白くなっていく、というイメージでした。色への向き合い方が前作とは少し変わっているかもしれません。 ――冒頭の食堂のシーンや、終盤で光のかけらのようなものがキラキラ光る場面など、トツ子から見た世界は全体的に明るくきれいな色彩で描かれています。トツ子が見ている世界を表現するにあたって意識されていたことはありますか? 山田 トツ子の見ている色は、トツ子の胸が踊る色、彼女が嬉しくて好きだなと思える色に焦点を当てています。きっと彼女も苦手な色はあると思うのですが、今回は「好き」に焦点を当てて、トツ子の見ている世界として朗らかで鮮やかなものを観客の方とも共有したいと思っていました。なので、画面の中で少し不協和音を感じる色は排除していく、という感じでしたね。やはり光を描きたかったので、色が重なれば重なるほど淡くなっていく、それを映像として表現していきたいと考えていました。