映画『きみの色』山田尚子監督×はくいきしろい対談。嫉妬し合うふたりが語る、色と光の表現
出会う前から互いに意識し合っていたふたり
――今回のはくいきしろいさんと『きみの色』のコラボレーションについてもお伺いします。もともと山田監督ははくいきしろいさんの作品がお好きだったそうですね。 山田 そうなんです。コロナ禍の自粛期間中で心が鬱々としていたときにはくいき(しろい)さんの作品に出会いまして、その光の美しさ、オーロラのような偏光色のなかにある無限の光のようなものにすごく心惹かれて、安らぎをいただきました。そのときはSNSでしか作品を見られず、作品を手に入れたくても手に入れられない状態で、どんな作家さんかも知らなかったのですが、この感覚がすごく羨ましかったですし、もしかしたら嫉妬で狂ってしまうかも、とも思いました(笑)。 はくいきしろい 私も昔から監督の作品は見ていました。たしか『けいおん!』の劇場版か何かのドキュメンタリー番組を見たことがあったのですが、そのときはこんなに若い女性の方が監督をしているなんて想像もしてなくて。それを見たときに意味もなく嫉妬してしまって(笑)。 ――お互い知らずに嫉妬し合っていたのですね。 山田 自分で作品を作るようになると、それまでは別の作品に対して厳しい目で見ることもあったけど、その棘が段々となくなって、どの作品も広い心で受け止められるようになるというか、「みんな作っててすごい!」というような気持ちになってくるところがあったんです。でも、いま話していて思い出したのは、はくいきさんの作品を見たときに感じた、メラメラとする嫉妬心でした(笑)。なんかちょっと焦ったというか、ヤバいって思ったんですよね。
《なにものでもない色》に込められた思い
――今回、はくいきしろいさんは劇中歌「水金地火木土天アーメン」のシングルCDジャケットに加え、映画とコラボしたステッカーの作品も制作されています。コラボ作品には、「なにものでもない色」というタイトルが付けられていますね。 はくいきしろい お話をいただいたときに、『きみの色』というタイトルしか知らず、本編を見ていない状態だったのですが、最初の手だけのヴィジュアルを見て、「あ、こういうことをやればいいんだろうな」って瞬時に頭に沸いたんです。その後、それに対してきちんとテキストをつけようと思って、「なにものでもない色」という名前をつけたらピースがハマった感じがしました。自分のアーティスト名にも「白」が入っているし、全部の色を持っている白い光の中から、見る人が自分の好きな色を感じ取って、それを自分の色にしていく、というような私の作品のコンセプトに立ち帰れたかなと思います。 ――普段は作品であるステッカーを鑑賞者が自由にカットして持ち帰ることで、作家と鑑賞者とのあいだに双方向の関係を作り出すことを作品のコンセプトにされていますね。 はくいきしろい そうですね。いつもは作品を切り取って、グラムで売ったりしているので。 山田 グラム売りですか? はくいきしろい はい。アート業界へのカウンターのようなところもあって、1g200円など、重さで売るということをしているんです。それで鑑賞者が好きな色や形を自分で切り取って持ち帰るという作品を普段は制作しているのですが、そのコンセプトは『きみの色』の作品とも合っているかなと思いました。