マウスとアプリでPC操作…世界を変えた初代Mac 貫かれたジョブズの美学と革新性 #なぜ話題
シンプルなデザインを追求するジョブズの製品にも失敗作はあるという。 「2000年に発売されたPower Mac G4 Cubeは世界一クールであることを売りにしていました。しかし高額な上、拡張性に乏しく、さっぱり売れなかった。静電気だけでオンオフできる先進的なスイッチが付いていたのですが、猫が前を歩くだけでシャットダウンすることもあった。実用性より美意識が先行したプロダクトでした」 振り返れば、初代Macの販売も最終的には振るわなかった。松井さんは「時代を先取りしすぎたから」と分析する。 「当時はスティーブのデザインのセンスについてこられる人が少なかった。しかし1995年にWindows95が登場してGUIに親しんだ層が増え、インターネットも普及したから、パソコンの利用価値が一挙に上がった。だからスティーブ復帰後の最初のMacであるiMacが商業的に大成功したんでしょう」
iPadこそジョブズの考えるPCの理想形?
アップルを離れたジョブズが古巣に戻るのが1997年。当時はいつ倒産してもおかしくない状況に追い込まれていた。それをひっくり返したのが、1998年発売のiMacだ。
iMacは初代Macに近い美学に貫かれていた。パソコンの基本的な部品とディスプレイが一体化し、天井部分には持ち運び用のハンドルもある。拡張機能の接続には当時出始めたばかりのUSBに整理、統一され、デザインはすっきりしていた。iMacの「i」にはinternet、individualなどのさまざまな意味が込められた。 「i」はiPod(2001年)、iPhone(2007年)、iPad(2010年)など後のアップル製品にも踏襲された。いずれもジョブズのデザインセンスが光る、シンプルで、使いやすいヒット商品だ。iPhoneの世界での販売台数は2010年代後半から毎年2億台を超えている。 前出の柴田さんは、最初のMac完成以前からジョブズが思い描いていた「パソコン」は、iPadのようなものだったのかもしれないと語る。 「もともとコンパクトでシンプルなものを求めていた。約8キログラムの初代Macですら持ち運べるように取っ手を付けていた。その意味でiPadは理想形だったのでは」 柴田さんの見立て通りの挿話が前出の評伝にある。初代Mac発売前、ベトナム戦争戦没者慰霊碑の設計で有名になったマヤ・リンという中国系の若手デザイナーとジョブズが意気投合し、アップルに招いた。その際、リンは「(コンピューターを)もっと薄くしたらいいんじゃないの? 真っ平らなノートみたいにしたら?」と話した。そのときジョブズは「最終的にはそうしたい、技術的に可能となったらなるべく早く実現したい」と答えたという。