マウスとアプリでPC操作…世界を変えた初代Mac 貫かれたジョブズの美学と革新性 #なぜ話題
ジョブズが1983年6月に同店で購入した橋口五葉「髪梳ける女」は、翌1984年1月のMac初披露時のデモンストレーションでお絵かきソフト「MacPaint」の紹介スクリーンショットに使われた。松岡さんによると、ジョブズは1984年2月にも同じ作品を再度購入しているという。 「なぜ2点買ったのかわかりません。1枚目は会社に寄贈して、2枚目は自分用に買い直したのかもしれません」 初来店のときに新版画について松岡さんに教えを請うたが、その後、ジョブズがアドバイスを求めることはなかった。年に2回ほど訪れ、自分で数点ずつ“掘り出し物”を購入していったという。 「富士山、桜、鳥居などが描かれた、海外旅行者がよく選ぶような作品をジョブズはめったに選ばなかった。川瀬巴水(はすい)の初期の作品を多く手に入れているのですが、たまたま在庫していた稀少性の高い作品をよく見つけていた。巴水をしっかり勉強していると感じました」
新版画がiPhoneデザインに影響与えた?
なぜジョブズは新版画を集めたのか。20年間に及ぶ付き合いの中、ジョブズとは何度も対面や電話で話したが、いつも日常会話に終始し、松岡さんが本人に直接理由を聞く機会はなかった。しかし、2023年6月17日にNHKで放送された「日本に憧れ 日本に学ぶ~スティーブ・ジョブズ ものづくりの原点~」の取材を受け、その一端が見えた。
番組にジョブズの10代の頃からの友人が登場し、自身の母親がジョブズに巴水の作品を教えたに違いないと証言。母親はスタンフォード大学で日本美術を学び、自宅には巴水の作品を飾っていた。そこにジョブズがしばしば遊びに来ていたという。 松岡さんはNHKの記者から、その友人の母親バンビさんが兜屋画廊に行ったことがあると話していたと聞かされた。といっても銀座の兜屋画廊ではなく、サンフランシスコにある支店だ。 実は、松岡さんは1969年から75年まで、サンフランシスコ支店に勤めていた。 「もしかしたらサンフランシスコでバンビさんに新版画を売ったのは私かもしれません。ジョブズはバンビさんから『東京に兜屋画廊っていうのがあるよ』と聞いたんじゃないでしょうか」