マウスとアプリでPC操作…世界を変えた初代Mac 貫かれたジョブズの美学と革新性 #なぜ話題
松岡さんが最初にサンフランシスコで扱っていたのは新版画ではなかったが、アメリカ人から浮世絵や新版画を教えられ、多く仕入れるようになったという。 「江戸時代の変体仮名を私が読めないで困っていると、葛飾北斎研究の大家ロジャー・キースに『読んであげましょう』と言われたこともあります。恥をかきましたよ。でも、彼らのおかげで日本の木版画の面白さに気づけたんです」 浮世絵は、ゴッホ、マネ、ルノワールなど西洋の芸術家に大きな影響を与えたことが知られている。同様に、新版画がMac、iPhone、iPadなどのアップル製品のデザインに影響を与えた可能性があるのではないか。 「iPhoneの形を見たとき、巴水の『塩原おかね路』のような縦長の作品をきれいに表示させたかったのかなと思いました」
松岡さんによれば、巴水の作品は余計な要素が削ぎ落とされ、独特の効果をかもし出しているという。アップルが作った最初のパンフレットの表紙に記されたレオナルド・ダ・ヴィンチの格言「洗練を突き詰めるとシンプルになる」に通じるものが新版画にあったのだ。
デザイン以外も「シンプルさ」貫くジョブズの美学
アップル製品のデザインはどれもシンプルで、すっきりしている。だが、シンプルだったのはデザインだけではない。 「アップルは製品ラインアップも参入事業も極端に少なく、組織の階層も少ない。だから社員の力が分散しにくく、大企業の割に小回りがききます。在庫管理が徹底されているから利益率も非常に高い経営体質です。1997年にアップルに呼び戻されたスティーブが、前任CEOの始めた改革を推進し、不採算部門や膨らんだ開発プロジェクトを整理して、シンプルにした結果です」 そう語るのは、1992年にアップルジャパンに入社、2002年から米国本社に移籍し、品質保証部のシニアマネージャーなどを務めた(2009年退職)、松井博さんだ。 「テスラの経営者イーロン・マスクはスティーブのスタイルを参考にしているんじゃないかと思いますね。自動車メーカーのカタログには何十車種も載っているのが一般的ですが、テスラにはモデル3やモデルYなど片手で余るほどの車種しかありません」