いびきで“睡眠離婚”や避難所ストレス…身近な社会問題にどう向き合うか?
いびきに悩む人は少なくない。米国ではパートナーと別々の部屋で寝る「睡眠離婚」という言葉まで生まれている。いびきは重症化すると、高血圧や心筋梗塞、心不全など命にかかわるリスクを引き起こしかねない。自然災害の発生時には、大勢の被災者が駆け込む避難所で問題になることもある。この「身近な社会問題」であるいびきにどう向き合えばよいのか。いびきに悩む当事者、睡眠障害の専門医、避難所の問題に詳しい専門家に取材した。(ジャーナリスト・国分瑠衣子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
夫のいびきで起きた長女が泣き出す
「グー、グゴッ……グガアアア…」 夜も静まった午前1時過ぎ。夫の大きないびきで、隣で寝ていた生後半年の長女が泣き出した。 加藤麻衣さん(仮名、34)は、慌てて抱っこして長女をあやす。去年の年末のことだ。 関西地方に住む加藤さんは夫(30代)、長男(4)、長女(1)との4人暮らしだ。学生時代からの付き合いである夫は、出会った頃からいびきをかいていた。加藤さんは眠りが深いほうで、隣で寝ていても全く気にならなかった。病院での治療を勧めたこともあったが、夫は「自分の両親もいびきをかいていたから」と言い、受診しなかった。
状況が変わったのは、2022年夏に長女が生まれてから。長男と違い、繊細な長女は小さな物音でも目が覚めることが多く、夫のいびきで泣き出すことがあった。 「一度起きてしまうと、なかなか寝てくれず。抱っこして、部屋を歩いて、なんとか寝かせて、ベッドにそっと置く。すると、また起きてしまう……の繰り返しでした」 夜間の3時間ごとの授乳やオムツ替えに加え、夫のいびきが起因して睡眠不足になり、疲労が蓄積した。 「私と長女、夫と長男という組み合わせで別々の部屋で寝たこともあるんです。でも、トイレトレーニング中だった長男が、私を探して部屋に来てしまって、うまくいきませんでした」
特に大変だったのが週末だ。長男は幼稚園が休みで、午前7時ごろから起きて元気に遊んでいる。寝返りを打ち始めた長女も目が離せない。だが、夫は夜に十分な睡眠がとれていないため、午前10時ごろまでいびきをかきながらリビングのソファで寝ている状態だった。 加藤さんが夫を起こすと、数時間は子どもを連れ出してくれるが、午後2、3時ごろには「疲れた……」と、再びソファで寝てしまう。 「日中は起きていてほしい」と夫に言ったことがある。夫は「そうしたいけれど、昼間が本当にしんどくて……」と疲れた声で答えるのみ。夫が疲れているのはよく分かる。だが、産後間もない加藤さんも夜間の授乳や日中のワンオペ育児で疲れはピークに達していた。