マウスとアプリでPC操作…世界を変えた初代Mac 貫かれたジョブズの美学と革新性 #なぜ話題
StarはMacに先立つこと3年、1981年4月に発売された。GUI、マウス、家庭や企業のネットワークで用いられる通信規格のイーサネット、電子メールなどを備えた世界初の商用コンピューターだ。これらの技術は複写機大手ゼロックスのパロアルト研究所で開発された。 実は、スティーブ・ジョブズは1979年12月にこの研究所を訪れ、GUIやマウスなどを見学している。ゼロックスのベンチャーキャピタルからアップルに出資の申し込みがあったとき、ジョブズはパロアルト研究所で開発中の技術を見学させてもらう見返りとして出資を受け入れる条件を出し、合意していたからだ。 「WindowsがMacを真似したというなら、Macだってお互いさまなのです。Starは値段が高すぎて普及せず(サーバーとワークステーションからなる基本システムで約7万5000ドル)、ゼロックスはまもなくパソコン市場から撤退します。その後、Macはクリエイター向けとして、Windowsはビジネス向けとして棲み分けが進みましたが、パソコン市場でのシェアはあっという間にマイクロソフトが上回り、今も圧倒している状況です」
Macは、そのシステムやコンセプトこそ革新的と高評価を得たものの、動作の遅さ、ハードディスク未搭載の欠点などから、売れ行きは悪化。ジョブズはすべての役職を解かれ、1985年9月、アップルを去った。
Macお披露目時に紹介された新版画「髪梳ける女」
ジョブズ退職には、彼自身が部下や同僚に対して怒りっぽく、冷酷な態度で接していたことも背景にあった。2011年の死後、間もなく世界同時発売された評伝『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン)によれば、「そんなのは時間の無駄だ」「くだらない」「大ばか野郎」などの罵声を浴びせることは日常茶飯事だったという。 一方、周囲をいらつかせるジョブズなど想像できないと語る人もいる。銀座の老舗画廊「兜屋画廊」などで画商をしていた松岡春夫さんだ。 「評伝を読んで驚きました。私の知るジョブズはいつもフレンドリーで、いばる様子なんかまったく見せませんでしたから」 ジョブズが初めて兜屋画廊を訪ねたのは1983年3月11日。「新版画をこれから集めたい。いろいろ教えてください」と挨拶してきたという。 「名刺をもらいましたが、アップルがどんな会社かもわかりません。同月28日の朝日新聞夕刊でジョブズの紹介記事を目にするまで、アメリカ人の背の高い若者としか思っていませんでした」 新版画とは、明治後半から昭和時代に制作された木版画のこと。江戸時代に流行した浮世絵の流れを汲み、洋画の要素も加味して、実験的な作品が次々と生み出された。