マウスとアプリでPC操作…世界を変えた初代Mac 貫かれたジョブズの美学と革新性 #なぜ話題
その後、売れ行きは急激に失速するが、スペックを向上させた後継機やMac向けソフトウェアも登場して持ち直す。特に1985年に発売されたデスクトップパブリッシング(DTP)ソフトやアップル社製プリンターの登場以降、Macは出版と印刷に欠かせない道具と認識されるようになった。また「個人」が使うコンピューターとしても人気を博していった。 柴田さんはそんなMacに人生を狂わされたと笑う。 「日本でGUIが一般に普及し始めたのはMac発売から2年くらい経ってから。その頃、Macに関する記事を書いてくれと出版社から声がかかった。当時私はメーカーで技術開発をしていたのですが、学生時代からの付き合いがあり、頼まれたら断れない性分。記事を書いているうちに退職してライターになりました。Macがなければ、もっと真面目な人生を送ったんじゃないかな」 今でこそMacの歴史的価値を評価する柴田さんだが、当初は魅惑的な期待とともに「嫌悪感も覚えた」と振り返る。
「僕はもともとプログラミングが好きでパソコンに興味を持ちました。パカッとケースを開けて回路基板を見たり、自分なりに改造したりすることも楽しんでいた。ところがMacはプログラミング不要で使えるし、ケースを簡単に開けることもできない。技術者としては、つまらなかったね」 一般ユーザーには使いやすさ、直感的な操作性が受け入れられたが、その半面、プログラミングや電子工作の愛好家には面白みの感じられないマシンでもあったのだ。
Windowsも「真似」ならMacも「真似」
米マイクロソフトの元副社長、西和彦さんも、Mac登場の熱狂を冷めた目で見ていた一人だ。1979年から1985年まで米国本社で副社長を務めていたが、1981年頃、アップルによるMac開発の噂を耳にした。 「現在のWordやExcelの前身にあたるソフトウェアをMac向けに準備しているチームがマイクロソフトにあったからです。アップルがGUIを備えたパソコンを開発中であることは知っていました」 いざ産声を上げたMacは期待外れのものだった。 「画面は9インチしかなくて、小さすぎる。CPU(中央演算処理装置)の選択も正しいとは思えませんでした」 Macが先鞭をつけたといわれるGUIについてはどうか。 「マイクロソフトもGUIを採用するOS(オペレーティングシステム)の準備をしていました。後にWindowsが出たとき、Macの真似だと言われましたが、そんなことはありません。Windowsが真似た対象はMacではなく、ゼロックスのStar(スター)です」