特別レシピ公開!「宇宙の香りのコーヒー」は本当に作れるのか?
講談社ブルーバックスのTwitterアカウント(@bluebacks_pub)がエイプリルフールにツイートした「ブルーバックスコーヒー」のネタに多くの反響をいただき、オリジナルマグカップの商品化を目指したクラウドファンディングが立ち上がりました(※2021年11月5日に募集締切しました)。 コーヒーの味は淹れ方で変わるのか? 科学的に考えてみた 〈幻の「ブルーバックスコーヒー」オリジナルマグカップが手に入るチャンス!〉 ツイートのもう一つのネタ、「宇宙の香りのコーヒー」は実現困難だろうと諦めかけていたのですが……この度、ブルーバックスのロングセラー『コーヒーの科学』の著者・旦部幸博先生が、本気で考えて下さいました!
エイプリルフールのネタを本気で考えてみる
今日10月1日は「コーヒーの日」だが、ちょうど半年前に、講談社ブルーバックスのtwitterでこんなツイートが投稿された。 ブルーバックスコーヒー、始めました。 火星から取り寄せたとっておきの豆を焙煎したら、ラズベリーのような「宇宙の香り」が楽しめるコーヒーができました。 半年前といえば4月1日……そう、これはエイプリルフールのつぶやきだったのだが、この「ブルーバックス印」のマグカップを見かけた愛読者から「どこで売っているの?」「私も欲しい」という声が殺到。その結果、このたび正式に「ブルーバックス・アウトリーチ」による、クラウドファンディングでのプロジェクトが立ち上がり、なんと開始1時間ほどで目標額に達成。現在もまだまだ伸びている。まさに嘘から出た真になった。 さすがに火星からの取り寄せは無理にしても、コーヒー好き&科学好き&読書好きとしては、折角ならこのマグカップで飲むのに相応しい、それっぽいコーヒーを用意したいところである。ブルーバックスから『コーヒーの科学』を上梓したよしみで、今回は宇宙と科学をテーマに、ブルーバックスらしいコーヒーのスペシャルメニューを考えてみよう。
宇宙はラズベリーの香り?
宇宙飛行士たちは、宇宙空間は無臭ではなく、独特の匂いがするという。直接嗅ぐことはできないものの、船外活動をした後の宇宙服からは、熱した金属、焼いた肉、そしてラズベリーの甘い香りが混ざったような独特の匂いがするそうだ。 2009年、天の川銀河の中心部近くに位置する分子雲「射手座B2」から、ぎ酸エチルが発見された(https://www.aanda.org/articles/aa/full_html/2009/19/aa11550-08/aa11550-08.html)。これが宇宙に漂う「ラズベリーの香り」の正体だと考えられている。 ぎ酸エチルは、高校化学の教科書に登場するエステル(カルボン酸とアルコールが脱水縮合したもの)の一種で、ぎ酸とエタノールがエステル化した化合物だ。エステルの仲間には、フルーツのような芳香を持つものが多いが、ぎ酸エチルもラズベリーやパイナップル、ラム酒などに含まれており、これらのフレーバーを作る食品香料として利用される。 じつはコーヒーの香りにも、ぎ酸エチルが含まれているという研究結果がある。ただし、焙煎したコーヒー豆に含まれる量は0.6 ppmにすぎない。コーヒーカップ1杯(約150ml)あたりにざっと10gの豆を使うとして、仮に100%の効率で抽出できたとしても0.04ppm……飲水中のぎ酸エチルに対する知覚閾値(風味を感じる最小濃度)が17 ppmとのことなので、残念ながら微量すぎて感じとることは難しいようだ。