本質は「人を喜ばせるための笑い」――知られざるお笑い激戦地、沖縄芸人地帯を行く
「せやろがいおじさん」でブレーク
連綿と続く沖縄の笑いがある一方で、そことはまったく無縁でありながら全国の注目を集める芸人もいる。沖縄のタレント事務所の一つ、オリジン・コーポレーションの看板芸人である榎森耕助だ(3月末に退所予定)。O-1と並ぶ沖縄のビッグコンテスト、お笑いバイアスロンを4連覇した実績を持つコンビ・リップサービスのツッコミ担当である。ちなみにオリジンは漫才日本一を決めるM-1グランプリで2位となったスリムクラブ(現・吉本)がかつて在籍した事務所でもある。 奈良県出身の榎森は、沖縄の大学に進学し、そのまま沖縄で芸人となった。それゆえにこんな苦労を味わったという。 「最初の頃は、沖縄県民のくせに、笑わせようとして無理に関西弁をしゃべってるやつと勘違いされることが多くて。『うちなーんちゅのくせに、あいつ、関西弁使ってるばー』みたいな。それがいちばん嫌でしたね」
榎森が全国にその名を知られるようになったきっかけはYouTubeだった。「せやろがいおじさん」のニックネームで、2018年から、様々な時事問題について突っ込みつつ、かつ、わかりやすく解説する動画『ワラしがみ』を投稿し続けている。沖縄の青い海をバックに、赤いふんどし姿でまくしたてる様子のインパクトも手伝い、今やチャンネル登録者数は33万人を超えている。せやろがいおじさんは、一時期、朝のワイドショー番組『グッとラック!』でレギュラーコーナーを持つまでになった。 「ごりごりの評論家やコメンテーターほどには知識はないけれども、僕のほうが話す技術や笑かす技術は長けている。その分、シビアな内容でも、空気が硬くなりすぎない。そこに僕の芸人としての価値があんのかなと思う」 ネットを主戦場にしている榎森はこれまで沖縄には存在しなかったタイプの芸人だ。これまで沖縄から全国区となったガレッジセールやスリムクラブは沖縄色を自分たちの武器としていた。しかし榎森は沖縄弁を話さず、ことさら沖縄ネタを扱うわけでもない。それだけに「沖縄の」というくくり方には抵抗を覚えるようだ。 「僕は沖縄も、関西も、東京も、根っこは一緒やと思いますけどね。芸人は人を笑わせて、よっしゃーと思う人たち。その環境を求めてやってるだけなんじゃないですか」