本質は「人を喜ばせるための笑い」――知られざるお笑い激戦地、沖縄芸人地帯を行く
榎森に「沖縄の芸人」というしがらみはない。ゆえに活躍の場も、どんどん広がっている。 多様化とボーダーレスの時代において、榎森が言うように「沖縄の」とくくるのはそもそもナンセンスなことなのかもしれない。だが、沖縄の喜劇文化の中に、ここでしか生まれえなかったものを感じるのも事実だ。 沖縄で芸人を続けることは、全国を見据えるなら、ときにマイナスに作用する。しかし、何らかのきっかけで「無理解」が「理解」に転じたとき、それは沖縄芸人にしか持ちえない最強の武器になるのではないか。
沖縄のお笑いの本質とは
沖縄では最古参といっていい事務所、FECオフィスのタレントマネージャーを務める大久保謙(36)は話す。 「吉本が沖縄に来て、もう10年近くになる。でも沖縄のFECもオリジンも今も存在感を維持しています。沖縄は全国で唯一、吉本にのみ込まれていない土地と言っていいんじゃないですか。それくらい沖縄には沖縄にしかない笑いがあるんだと思います。沖縄のお笑いは、(東京と大阪に)カウンターを放てるぐらいのポテンシャルはあると思いますよ」 大久保はもともと東京の大手芸能事務所に所属していた。その大久保から見た沖縄の笑いとは――。 「大阪や東京は笑わせるための笑い。それに対し、沖縄は人を喜ばせるための笑いのような気がするんですよね」 笑いの聖地は国内に三つある。東京、大阪、そして沖縄である。 *本取材・撮影は2020年10月に行いました 中村計(なかむら・けい) 1973年、千葉県船橋市生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。ノンフィクションライター。某スポーツ紙をわずか7カ月で退職し、独立。『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』(新潮社)で第18回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』(集英社)で第39回講談社ノンフィクション賞を受賞。他に『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社新書、ナイツ塙宣之著)の取材・構成も担当した。近著に『金足農業、燃ゆ』(文藝春秋)、『クワバカ クワガタを愛し過ぎちゃった男たち』(光文社新書)がある。好きな芸人は春風亭一之輔と笑い飯、趣味はキャンプとホットヨガ。