イーロン・マスクが米宇宙政策に影響力、NASA改革とSpaceX優遇で安全保障にも波及へ
今年9月、マスク氏はSpaceXなら2年以内にStarship 5機を火星に送り込み、その4年後には有人火星ミッションを実行に移せると発言した。もし、それが可能ならばゲートウェイやSLSの必要性は薄れてしまう。ただし、マスク氏の発言に対して業界の専門家の多くは、常識的に考えて「そのスケジュールは到底実現不可能だ」との見方を示している。 マスク氏がSLSの計画を完全に中止させるのは難しいとの見方もある。SLSのプログラムは、その開発を担っているマーシャル宇宙飛行センターのあるアラバマ州をはじめ、フロリダ州、テキサス州で6万人以上の雇用を生み出しており、計画を中止するとなると各州選出の共和党議員からの強い反発が考えられるという。
ただ、マスク氏が政権に深く関わることにより、Starshipの開発ペースを高めるような予算の融通や規制の緩和が行われる可能性はある。これまで、Starshipの飛行試験の前後には、マスク氏が「余計な環境分析」と呼ぶ連邦航空局(FAA)の調査が行われることが多く、そのためにSpaceXは何週間も作業を中断させられていた(ただし過去のStarshipの飛行試験では機体の爆発や、周辺一帯への何らかの灰のような粒状の物質の降下など、FAAが調査すべき問題が発生していたことも事実だ)が、それらを簡略化または回避するように働きかけることも考えられなくはない。
前のトランプ政権下でNASAの有人探査部門を率いていたこともある宇宙産業コンサルタントのダグ・ロバーロ氏は、新政権のもとでは「少なくとも、より現実的な火星への計画が立てられ、そこへの到達が目標として設定されることになるだろう」と述べている。 惑星協会(Planetary Society)のエリザベス・ケーンク氏は、今後4年間は、宇宙開発全体にとっては良い年になるかもしれないが、NASAにとっては悪い年になるだろうと述べた。