イーロン・マスクが米宇宙政策に影響力、NASA改革とSpaceX優遇で安全保障にも波及へ
■アルテミス計画 今後のNASAにとって最大の問題は、月面有人探査や火星への有人探査を目指すアルテミス計画をどのように進めていくかだ。この計画は近年、停滞気味であることが指摘されるようになりつつある。10月には、ニュースメディア「ブルームバーグ」の創始者マイケル・ブルームバーグ氏が「1000億ドルもの予算を注ぎ込んでいるにもかかわらず、NASAの月面ミッションは行き詰まっている」と、自身のオピニオン記事で主張を展開した。
ただ、動きが鈍っているとしても、NASAがアルテミス計画を完全に中止することは考えにくい。この計画を発足させ、月面有人探査を再開することを決めたのは前トランプ政権だからだ。 ■ゲートウェイとスペース・ローンチ・システム アルテミス計画には、ISSの1/6程度の規模の多目的宇宙ステーション「月周回有人拠点(ゲートウェイ)」を建造し、それを月面及び火星探査に向けた居住拠点および物資補給の中継基地とすることが計画されている。このゲートウェイは、現在はISSが担っている、無重力環境における科学研究の場としての役割も想定されている。
ションで、月面へ宇宙飛行士を到達させる計画だが、このミッションで飛行士を月軌道へ送り届けるロケットには、NASAが2011年から約240億ドルを投じ、ボーイングとノースロップ・グラマンが開発を主導してきたスペース・ローンチ・システム(SLS)の使用が予定されている(月面着陸と帰還はSpaceXのStarship HLSを予定)。 しかしアルテミス計画は、計画スケジュールの遅延、管理上の問題、増大するコストに関する報告が継続的になされており、見直しを求める声も上がりつつある。たとえばアルテミス3号のミッションで飛行士が搭乗する予定のオリオン宇宙船は、耐熱シールドに問題が発見され、その開発スケジュールに遅れが生じている。
停滞が続くようなら、この計画には大きな手入れが加えられる可能性がある。マスク氏は完全な使い捨て型ロケットで、打ち上げにかかるコストも巨額になるSLSを、NASA肥大化の典型例だとして嫌っている。 11月12日にワシントンで行われたBeyond Earth Symposiumのパネル討論会では、トランプ新政権が進歩を加速したりコストを削減したりするために、有人宇宙飛行への取り組みを含むNASAの重要な役割に関して精査を行う可能性があるとパネリストらは述べた。またマスク氏が政権への関与を深めることにより、特にSLSとオリオン宇宙船の計画が継続されない可能性もあるとされた。