イーロン・マスクが米宇宙政策に影響力、NASA改革とSpaceX優遇で安全保障にも波及へ
一方、NASAはアメリカの政府機関のなかでも最も肥大化し非効率的な組織と言えるかもしれない。NASAのフィールドセンターはアメリカ国内全10カ所にあり、各センターがそれぞれ、独自の管理層、人事体制を持ち、それぞれに膨大な経費がかかっている。 NASAは近年、機関全体のコストを効率化する努力の一環として、宇宙船やロケットなどのすべてを内部開発するのではなく、積極的に民間企業から商用サービスとして購入する方向性を打ち出している。そのわかりやすい例としては、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士や物資の輸送が挙げられる。
スペースシャトルが2011年に退役してから、ISSへの飛行士や物資の輸送はロシアのソユーズ宇宙船/プログレス補給船に依存する状況が長年続いていた。だが、2020年のDemo-2試験飛行ミッションで、SpaceXのCrew Dragon宇宙船による初めてのISSへの人員輸送が成功してからは、ロシアのソユーズ宇宙船とその役割を分担することが可能になった。 NASAによる民間企業を積極的に活用するアプローチは、宇宙通信から月着陸船、宇宙ステーション運営にいたるまで手を広げつつある。アメリカの宇宙機関は今後もさらに民間企業を宇宙開発に呼び込みたいと考えているはずだ。
だが、ここでマスク氏による利益相反が顔を出す。NASAによる民間企業からの商業サービス導入の成功の多くは、マスク氏が所有するSpaceXに依るところが大きい。SpaceX以外の民間企業は、NASAが新規調達案件の契約を増やそうとする中で苦戦を強いられており、すでに実績あるSpaceXと実質的な競争ができるほどにはなっていない。 また、米議会はNASAが商業サービス利用を拡大することによって、NASAの各センターへの資金配分に関する議会の影響力が低下したことに不満を持っていると言われている。議会からの風当たりがあまりに強まると、マスク氏がさらにSpaceXにばかり巨額の調達案件を持ちかけるようなNASAの改革は困難になるかもしれない。