「脱会には居場所が必要」「オウムの教訓生かされず」 鈴木エイト氏×江川紹子氏が語る旧統一教会問題
──信仰を持つ人たちが脱会しようとするとき、社会はどう受け止めるべきでしょうか。 エイト 脱会は「居場所」の問題なんですよね。教団の輪の中から出ようとしても、社会の中に居場所がないとまた戻ってしまう。脱会しようという人が駆け込める受け皿が必要だと思います。 江川 教団の価値観と現実社会の価値観。その人にとって、どっちがリアルに感じられるかがポイントだと思う。そこですごいのが恋愛の力です。教団の価値観に強力に染まっていた子が、あるとき外部の世界で好きな子ができると、急に教団をやめたりする。 ──ある人を心から信じて、信じられる。そのことで教団の価値観から解放されると。 江川 好きな人ではなく、友人であることもあります。マニュアル化はできないですが、心が揺さぶられて、教義の世界よりリアルな感覚を体験する効果は大きいように思います。 エイト わかります。この間話したエホバを脱会した二世の子は、「社会に出て全然うまくいかなかった、けれどバイト先のコンビニの店長が何を言っても信用してくれた」と。その人に救われたということを言っていました。この人なら自分を信用してくれるという感覚を持つことができれば、現実社会に拠り所ができていくんだと思います。 江川 だからこそ、一般の人にカルトの人を受け入れるための啓発活動が必要なんです。差別や非難ではなく、受け入れる。そうすることで、こちらの価値観も伝えていける。
エイト そうなると、さっきの理念法のようなものが、やはり必要ですね。7月の事件はカルト団体の二世が起こしたというより、国がカルト問題を放置してきたがゆえに起きてしまったとも言えます。 江川 地下鉄サリン事件と安倍元首相の銃撃事件と、日本はカルト絡みで2度も世界を驚かすような事件を引き起こすことになってしまった。銃撃事件はもちろん教団の人間がやったわけではなく、あくまでその背景での問題でしたが、2度もです。カルトに対してどう向き合うか、オウム事件の教訓が生かされなかったからですよね。いま旧統一教会の問題に対処せず、カルトの問題を放置したら、また数十年後に後悔するようなことが起きるでしょう。 エイト 旧統一教会だけを対象にしたものではなく、どんな団体にも対応できるような包括的な理念法ができれば、いま団体にいる人も将来的にちゃんとケアできることになる。その理念をしっかり打ち立てられるかが問われていますね。
------- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。