「小さいうちからこういう子が地域にいることを知ってほしい」――障がいのある子も安心して遊べる「インクルーシブ公園」の意義と、保護者の思い #こどもをまもる
利用者の遊びを見ていて、いろんな気づきを得たり、仕事のやりがいを感じたりもする。知的障がいがあり引っ込み思案の女の子が、自発的に回転遊具の中に入って他の子と一緒に遊んでいて、お父さんを感激させた。手の不自由な子どもが初めて遊具をよじ登ってお母さんをびっくりさせた。「モーグルヒル」の傾斜の下に潜り込んで、半透明の台から通ってくる光を楽しんでいる自閉症の子どももいた。 「夢中になるといろんなことが関係なくなるのかな。気持ちよいというのはみんな一緒で、障がいがあることを特別視することはないと気づきました。思いがけない使われ方をされてハラハラするときもあるんですが、事故につながらないように設計するのが私たちの腕の見せどころですから」(北村さん)
現在、遊具の市場規模は120億円程度という。コトブキに寄せられる遊具の商談のうちインクルーシブ遊具は2割程度だとか。同社マーケティング本部本部長の吉原周路(しゅうじ)さんが説明する。 「全体の公園予算が増えているわけではないし、子どもの人口は逆に減っています。でも既存の遊具を入れ替えるときにはインクルーシブな遊具を検討される自治体が増えた。全体のパイの大きさは変わらなくとも、割合は増えてくると思うんですよね」 だが、遊具を置いただけでインクルーシブな公園になるわけではない。 「安心して利用できるトイレなどのアメニティー施設はあるのか、カンカン照りの陽射しのなか、付き添いの保護者の方が見守りながら休めるところがあるのか。遊具以外の環境整備も非常に大事です。公園を運営する側は遊具だけでなく、環境面についても積極的に情報発信することが求められていると思います」(福田さん)
議論の過程こそがインクルーシブにつながる
福岡県福岡市は今後3年間で市内7つの区にひとつずつインクルーシブな子ども広場を設置していく。手始めに百道中央公園に今秋から着工する。 その過程で重要視したのは、市民とのワークショップだ。通常、公園の整備計画が持ち上がると、プランを市民に見せて意見をもらい、それを反映したプランを改めて見て確認してもらうという2往復で終わる。それを6回も繰り返したという。ワークショップに参加した市民は、児童の保護者、地域の住民、研究者、大学生など。 「インクルーシブな子ども広場を整備するのは初めての試みなので、まっさらなプランをつくる過程から市民の方々に入っていただきました。どのような遊びをどこに置くのか、動線はどうするのか。改めて、インクルーシブな子ども広場とは遊具を置くだけでなく、空間をつくることなんだと認識しました」(福岡市住宅都市局公園部整備課担当者) 参加者の負担も大きかったが、全員、とても熱心だったという。繰り返される議論を経験して、担当者はふとこんなことを考えたそうだ。 「この過程こそが、インクルーシブのきっかけになるんじゃないかと。私たちはお互いを理解したいし、公園はお互いの距離が近くなる場所にしたい。その話し合いが熱心に行われました」 その過程を市のHPで詳細に公表したところ、まだ整備工事に入っていないのに、全国の自治体から視察の申し込みが殺到しているそうだ。