「LOVEファッション―私を着がえるとき」(京都国立近代美術館)レポート。装いへの尽きない偏愛、時代と私的な物語の共鳴(文:Naomi)
ファッションと現代美術を通して、装う「私」への問いを試みる
京都・岡崎公園内にある京都国立近代美術館(MoMAK)で、京都服飾文化研究財団(KCI)とのコラボレーションによる特別展「LOVE ファッション ─私を着がえるとき」が開催されている。会期は9月14日~11月24日。 KCIは1978年に京都で設立。国内外の服飾と文献の収集、保存、研究、公開を行い、世界的に知られる専門機関だ。ファッションがテーマの企画展を美術館で実施することが非常に珍しかった1980年から、京都国立近代美術館と5年に1度、特別展を企画・開催してきた。 9回目となる本展のテーマは、「LOVE」。 装うことへの愛情や情熱、こだわり、憧れや願望だけではなく、私たちの心の奥にひそむ欲望、葛藤、矛盾など、一筋縄ではいかない「LOVE」を受け止めてきた存在としてのファッションを、18世紀から現代までの衣服作品と5つのチャプターで巡る構成だ。 加えて、ファッションブランドが企画・開催する展覧会と本展が似て非なるのは、衣服を通してだけではなく、現代美術の作家らによる多種多様な表現をキュレーションし、装う「私」という存在への問いを試みている点だ。現代美術もファッションも、‟いま” という時代を起点にした表現であることを再認識させられる。また、国内外の文学作品などから引用されたフレーズの数々も、展示空間を巡る鑑賞者の思考を立ち止まらせ、大いに刺激を与えている。
美への情熱と欲望、執着と狂気性
横山奈美の絵画作品《LOVE》で幕を開けるChapter 1「自然にかえりたい」は、様々な時代に作られた動物の毛皮素材や、華やかな草花のモチーフを豪華な刺繍であしらった18世紀の男性用ウエストコート、2000年代以降のワンピースやドレスなどを展示する。 たとえば、人類が最初に手にした衣服とも言える動物の毛皮、20世紀前半に流行した鳥の羽根や剥製が飾り付けられた帽子の数々は、一目でリッチで豪華なことがわかる。 いっぽうで、2001年の創業時より、動物愛護と環境保全、サステナビリティの観点から、動物由来の素材を使ってこなかった「STELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)」の登場は、私たちの倫理観を変化させ、素材の技術革新を後押ししただろう。 しかしそれでも、動物の毛皮に魅せられてしまうのはなぜか。そして、同じ動物由来の素材なのに、毛髪を三つ編みにしてより合わせたドレスには、強烈な違和感と狂気性を感じてしまうのはなぜだろうか。 続くChapter 2「きれいになりたい」でも、美への情熱と欲望、執着と狂気性が、紙一重であることを考えずにはいられない。顔より大振りな袖、コルセットによって締め上げられたウエスト、歩けないほど広がったスカートや高さのあるヒールレスシューズなど、美しいフォルムを追い求めた様々な衣服や小物が並ぶ。 そのなかで、ステレオタイプな美の観念に一石を投じたのが、川久保玲による「Comme des Garçons(コム・デ・ギャルソン)」が、1997年春夏に発表した「Body Meets Dress, Dress Meets Body」コレクション、通称「こぶドレス」だ。誰も見たことのなかったフォルムの登場と、ファッション史における重要性は、四半世紀を経たいまも揺るがないだろう。