「LOVEファッション―私を着がえるとき」(京都国立近代美術館)レポート。装いへの尽きない偏愛、時代と私的な物語の共鳴(文:Naomi)
「ありのまま」の自分とは何か
誰もが日々、社会のなかで様々な役割を担い、TPOをわきまえて装ういっぽうで、2000年代以降のボディ・ポジティブやボディ・ニュートラルな考え方、ありのままの自分を受容しようとするムーブメントも続いている。 Chapter 3「ありのままでいたい」では、1990年代に多くの共感を集めたヴォルフガング・ティルマンスが、2000年に発表したインスタレーションと、ありのままの身体を表出させるアンダーウェアから着想し、ほぼ同時代に発表された「Helmut Lang(ヘルムート・ラング)」のアイテムなどを展示。 また、同世代の女性たちのインタビューを題材に、彼女たちの日常や内面を写実的に描き出す松川朋奈の絵画は、年齢とともに属性が変化するなかで、「ありのままの自分」とは、「ありのままに生きる」とは何かを問いかけているように見える。
コム・デ・ギャルソンと『オルランド』
白を基調にした空間から一転、Chapter 4「自由になりたい」では、黒の空間に6体のトルソーが登場。川久保玲が手がけた「Comme des Garçons」と「COMME des GARÇONS HOMME PLUS(コム・デ・ギャルソン オム・プリュス)」の2020年春夏コレクションのルックだ。背景のスクリーンには、川久保が初めて衣装デザインを担当した、ウィーン国立歌劇場でのオペラ作品『Orlando(オルランド)》(2019)のダイジェスト映像が流れる。 オペラ作品は、1928年にヴァージニア・ウルフが発表した同名小説を元に、脚本、演出、作曲、衣装の全てを女性が手がけた。川久保は、主人公が性別や身分を越境しながら経験する、300年にわたるアイデンティティの変容を、衣服を「着がえる」描写で表現した。また、コレクションのテーマを予め明かしたのは、後にも先にもおそらくこの時だけ、という歴史的なシーズンでもあった。展示室でぜひ追体験してほしい。 そして、本展を締めくくるChapter 5「我を忘れたい」は、誰もが抱く‟こんな服が着てみたい” ‟あの服を着たらどんな気持ちだろう”という願望や期待、または欲しかった服に袖を通したときの高揚感を想起させる作品が並ぶ。 トルソー同様にライトアップされた、AKI INOMATA の《やどかりに「やど」をわたしてみる》に登場するヤドカリの「やど」には、着替えることで「私」を改め、違う「私」に変わろうと望む人間の心理が思わず重なる。