【経済学者・岩井克人氏に聞く】トランプ政権誕生と生成AIの衝撃――2025年、日本の針路は?(前編)
株主との対話は必要か?
――「日本の企業はもっと株主と対話すべきだ」という声についてはいかがですか? 相手がどういう目的を持った株主なのかを、きちっと見た方がいいと思います。本当に会社のためを思って長期的な視野で意見しているのか、短期的な利益だけを求めているのか。株主だからといって一律に意見を聞くべきだと思い込む必要はありません。 忘れてはいけないのは、株主には有限責任しかないことです。仮に会社が倒産した場合でも、投資したお金はなくなるけれど、個人財産には手をつけられません。あくまでも株式数に応じたリスクと議決権をもっている存在にすぎない。一方で、自ら会社を立ち上げた経営者や、その会社で働く従業員はもっと大きなリスクを負っています。 こういった部分でも株主主権論が多くの人の思考を支配してしまっているわけですが、株主は会社資産の所有者でもないし、あくまで有限責任しか負っていない存在だということを忘れてはいけません。 経済学者・岩井克人氏インタビュー トランプ政権誕生と生成AIの衝撃。2025年、日本の針路は? (後編) ◎岩井克人(いわい・かつひと)1947年生まれ。東京大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学Ph.D.取得。イェール大学助教授、プリンストン大学客員准教授、ペンシルバニア大学客員教授、東京大学経済学部教授、国際基督教大学特別招聘教授等を経て、現在、神奈川大学特別招聘教授、東京大学名誉教授、日本学士院会員。2023年、文化勲章受章。著書に、Disequilibrium Dynamics(Yale University Press, 日経・経済図書文化賞特賞)、『ヴェニスの商人の資本論』(ちくま学芸文庫)、『二十一世紀の資本主義論』(ちくま学芸文庫)、『貨幣論』(ちくま学芸文庫、サントリー学芸賞)、『会社はこれからどうなるのか』(平凡社ライブラリー、小林秀雄賞)、『経済学の宇宙』(日経ビジネス人文庫)など。近著に『資本主義の中で生きるということ』(筑摩書房)がある。 ◎江渕崇(えぶち・たかし)朝日新聞記者。1976年、宮城県生まれ。1998年、一橋大学社会学部を卒業し朝日新聞社入社。経済部で金融・証券や製造業、エネルギー、雇用・労働、消費者問題などを幅広く取材。国際報道部、米ハーバード大学国際問題研究所客員研究員、日曜版「GLOBE」編集部、ニューヨーク特派員(2017~21年、アメリカ経済担当)、日銀キャップ等を経て2022年4月から経済部デスク。現在は国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当している。初の単著となる『ボーイング 強欲の代償――連続墜落事故の闇を追う』(新潮社)が発売中。
フォーサイト編集部