【経済学者・岩井克人氏に聞く】トランプ政権誕生と生成AIの衝撃――2025年、日本の針路は?(前編)
外国人投資家にお金を差し上げる日本市場
ただ、意図は正しかったとしても、実際に日本で起きたことはその逆でした。 2010年代あたりから、徐々に日本の景気は立ち上がり、企業の利潤も増えてきたわけですが、その利潤がどこに使われたかというと、研究開発にも設備投資にもほとんど向かわなかった。もちろん、賃金にも向かっていない。企業の利潤が唯一、向かったのは、配当と自社株買いです。つまり、株主還元だけがダントツに上がっている。 しかも、さらに悪いことに、日本の株式市場においては、日本人の個人はそれほど株式を持っておらず、3割以上を外国人が保有しています。取引額にいたっては、7割が外国人です。 その結果、何が起きたかというと、本来、企業にリスクマネーを提供するはずの株式市場が、日本企業が生み出したお金を外国人投資家に差し上げる場所になってしまったのです。
資本主義とのつき合い方とは?
――ただ、一方では「日本にはキャピタリズムが足りない」という声も強くあります。 大事なのはバランスです。 私自身、長くアメリカに住んでいましたから、その意見はよくわかります。イノベーションに関しては、はるかにアメリカが進んでいます。ただし、その一方で、所得分配の不平等が突出してしまったわけです。 私のこれまでの研究は基本的に資本主義批判です。だが同時に、資本主義以外の社会システムも研究してきました。社会主義も、コミュニタリアニズムも。いずれも自由を可能にする貨幣や国家という「媒介」を拒絶するシステムです。そして、到達した結論は、チャーチルが民主主義について語った有名な言葉を借りれば、「資本主義は最悪のシステムだ。これまで存在した他のすべての制度を除けば」ということです。だから、我々は資本主義の傷にぼろ布を当てながら何とかやっていくしかない。 アメリカのように自由放任主義にも陥らず、逆に中国のような監視社会にもならない。その二つのディストピアの間で、いかにバランスをとっていくか。それがこれからの日本の生き方でもあると思うのです。 重要なことは、アメリカを見てもわかる通り、自由放任主義こそ自由の最大の敵であるということです。