IHI・日立造船・川重、船舶燃費で大胆不正 寡占市場の弊害あらわ
環境規制への対策がないがしろに
燃料費を抑えたい顧客が燃費の良いエンジンを求める一方で、製造現場には高性能な製品を造る余裕がなくなっている実情もある。 あるメーカーの人事担当者は「最近では優秀な理系学生が外資系企業やコンサルティング会社を志望するケースも多い。少子化で働き手が減っている中で、人材の質と量、いずれの確保も難しくなっている」と頭を抱える。近年は働き方改革も叫ばれるようになり、かつてのように現場に残業や無理のある勤務を強いることも難しくなった。 余裕がなくなれば、現場では必然的に作業に優先順位を付けざるを得なくなる。そこで軽視されがちなのが、安全面よりも直接的な影響の少ない環境規制だ。人の命を脅かすような安全性に関わる不正であれば、メーカーはリコールや認証取り消しによって多額の損失が生じる恐れがある。 その一方で、排出量などの環境規制は発覚しにくく、発覚した際のペナルティーも大きくない。燃費不正であれば、実際の燃費との差分となる燃料費を負担するケースがほとんどだ。IHI原動機の報告書でも、不正の背景には「安全性に問題がなければ品質記録が多少事実と異なっても構わない」との考えがあったと分析している。 ●実効性のあるペナルティーを 燃費の数値に実際の数値との乖離(かいり)があれば、同時に問題となるのが、窒素酸化物(NOx)放出量の規制だ。NOxはエンジンの燃焼時に発生する有害物質であり、呼吸器に悪影響を及ぼす大気汚染物質と認定されている。NOxについては、国内では2000年に海洋汚染防止法に基づく規制が設けられているほか、国際海事機関が定める放出量の基準もある。 エンジンの回転数に応じて排出されるNOxの上限値が設けられており、メーカーは試験運転時に確認する。燃費を良く見せていたことは、同時にNOx排出量も少なく見せていることになる。IHI原動機では、国内向け6件、海外向け4件の計10件で上限値からの逸脱があった。 国交省海事局によると、海洋汚染防止法では、船舶の所有者に証書の交付を受けたエンジンの搭載を求めている。 偽りや不正行為によってエンジンの証書が交付されていた場合、メーカーに罰金が科されるが、「これまでに罰金が支払われたケースは承知していない」(国交省海事局担当者)という。NOx規制からの逸脱が確認されたIHI原動機には罰金を検討しているが、前例がないため、どれほどの罰金が科されるのか不明だ。 国交省では、残る船舶用エンジンメーカー18社についても、9月末までに不正がないか報告するよう要請している。結果によっては、企業数が増える可能性もある。 中島氏は「安全性に問題がなければ、リコールや認証取り消しという重い処分はなかなか下されない。そこまでいかなくても一定の制裁金を科すなど、不正の抑止力として機能する新たなルール作りが必要ではないか」と話す。 同じ業界でこれほど不正が相次いでいては、メード・イン・ジャパンの信頼が失墜しかねない。メーカーや業界全体として襟を正す必要がある。
齋藤 徹