IHI・日立造船・川重、船舶燃費で大胆不正 寡占市場の弊害あらわ
船舶用エンジンの不正の連鎖が止まらない。4月にIHIの子会社、IHI原動機(東京・千代田)で発覚したことを皮切りに、7月に日立造船の子会社2社、8月に川崎重工業でも明らかとなった。専門家は「長年の付き合いによって生じた形骸化が不正を招いている」と警鐘を鳴らす。 【関連画像】不正の明らかになった、川崎重工の商船向け舶用2ストロークエンジン(写真=川崎重工業提供) デジタル燃料計のデータを操作し、燃料供給量を少なく見せる――。通常の燃料ルートだけではなく、別の場所からも燃料を供給してエンジンの出力を高く見せる――。 これはいずれも、顧客の目の前で行われた不正だ。船舶用エンジンを製造するIHI原動機が8月21日に発表した調査報告書では、大胆な手口が日常的に行われていたことが明らかになった。不正は前身の新潟鉄工所時代の1970年代から行われており、不正台数は延べ6831台にも上る。 燃費の改ざんは、日立造船の子会社2社で1364件、川崎重工でも673件の不正が確認された。各社とも不正は数十年に及んでおり、手口は似通っていた。前提として、エンジンは同じ機種であっても、燃費に個体差が生じてしまう。不正は、燃費が顧客に提供する資料に記載した「仕様値」に収まることや、数値のばらつきを抑えるために行っていたものだ。 ●顧客は船舶エンジンに合わせ、特定メーカーと長期間取引 なぜ同業界でこれほどの不正が相次いでいるのか。企業不正に詳しいデロイトトーマツグループの中島祐輔氏は「競争や淘汰圧のない市場では不正が慣行となりやすい」と指摘する。 国土交通省によると、国内の船舶用エンジンメーカーは22社あるが、メーカーごとに大型、小型、商船、漁船といったように得意分野が異なる。顧客は必要とする船舶エンジンに合わせ、限られたメーカーと長期間にわたって取引することになる。メンテナンスや修理などのサービスが受けやすいというメリットがある一方で、事実上の寡占、場合によっては独占市場ともいえる。 さらに、そのほとんどが大手メーカーやその子会社だ。顧客は「まさか大手が不正をするわけがない」と考え、メーカー側も長年の付き合いによって築かれた信頼や、顧客に十分に知識がないことにつけ込む。 中島氏は「立ち会い検査があっても事務手続きとなり、形骸化しているのではないか」と指摘する。不正の明らかになった4社はいずれも、出荷前に工場内で行われるエンジンの試運転には、ほとんどの場合で顧客が立ち会ったものの、不正を防ぐことは出来なかった。