「津波警報=避難指示」だけなら避難情報なんていらない? トンガ沖噴火から考える「避難情報廃止論」
今年1月15日。南太平洋・トンガ諸島にある「フンガトンガ・ハーパイ」と呼ばれる海底火山で大噴火が発生しました。この噴火の影響で、日本でも潮位の変化を観測。通常の津波とは違う現象でしたが、気象庁は津波警報・注意報の仕組みを用いて、国民に注意を呼びかけました。 【写真】津波警報を“目的外利用” 気象庁の決断は何が良かったのか?(前編) 災害情報に詳しい東洋大学理工学部の及川康教授(災害社会工学)は「気象庁は、津波警報のしくみをいわば“目的外利用”し、国民と『危機感と不安感』を共有しようとした」と指摘し、その決断を高く評価します。 実際、気象庁の長谷川直之長官は噴火の4日後の定例記者会見で「潮位変化がどういった現象によるものかは不明だったが、みなさんに安全の確保と警戒を呼びかける必要があった。そのため、津波警報のしくみを使って呼びかけることにした」と振り返っています。 及川教授は、このような一連の気象庁の行動は、自治体が避難情報(避難指示など)を発表する時の大きなヒントになると考えているようです。及川教授に寄稿してもらいました。
自治体はどうだったのか?
気象庁は自らが抱いた「危機感と不安感」を、津波情報を“目的外利用”することで国民と共有しようとした。それでは、自治体はどうだったのだろうか。 気象庁が発表した津波情報を受けて、その影響を受け得る地域住民に避難情報(避難指示および高齢者避難)を発表した自治体が、すべてではなかったにせよ、ほとんどであった。 避難情報の発表とともに避難所が開設されるわけだが、その避難所に避難した住民の数は、奄美群島などを除く地域では、概して少なかったようだ。真夜中の避難だったことも影響しただろう。新型コロナウイルス感染拡大の状況下で密をさける分散避難が徹底されたのかもしれない。 避難とは、あくまでも「難を避けること」であり、避難所にいくことだけが避難ではないので、避難所に避難した住民の数に一喜一憂するのは適当ではない。安全を確保したうえで、避難所ではない場所でその時間を過ごした住民は、(正確にカウントするのは難しいが)もっといたはずだ、と願いたい。