避難するのはむしろ危険? 過去20年の風水害犠牲者の分析で見えてきたこと
1999~2018年に発生した風水害の犠牲者の中で、避難行動(垂直避難は除く)を取った上で犠牲になった人のうち、約半数が自宅など避難する前にいた建物(避難元)には被害がなかったとする調査結果を、静岡大防災総合センターの牛山素行教授(災害情報)がまとめた。10月19、20日に香川県高松市で開かれた日本災害情報学会で発表した。 牛山教授は「避難とは避難場所に行くこと、という思い込みが社会的には強い。しかし、実は避難行動そのものが危険を伴うということを踏まえて、避難の在り方を考えることが重要だ」と話している。
「避難行動あり」犠牲者の約半数は避難元に大被害なし
牛山教授は1999年から2018年に風水害によって犠牲になった1259人が、どこで、どのような要因で犠牲になったのかなどを、避難の在り方を考えるための基礎的な資料として整備することに取り組んできた。 今回は、この1259人のうち「避難行動あり」で犠牲になった106人について、犠牲になった状況や自宅の被災状況などを分析した。なお、この調査で「避難行動あり」としたのは(1)避難目的で移動中に土石流・洪水などに見舞われた(避難途中)(2)避難先が土石流・洪水などに見舞われた(避難先被災)(3)いったん避難場所へ移動したがそこを離れて遭難した(避難後移動)――の3つのいずれかに当てはまる犠牲者。自宅の二階やマンションの上階などに移動する「垂直避難」は、屋外避難の危険性や困難さを検討することなどが目的という調査の性質上、避難行動ありに含めていない。 106人の犠牲者のうち、(1)の避難途中は68人、(2)の避難先被災は20人、(3)の避難後移動は18人。避難後移動の18人中、9人は屋外で行動中に被災しており、避難途中と合わせた77人が避難に関係した屋外行動中に犠牲になったことになる。 また、106人の避難元である自宅などの被害状況を現地調査や空中写真などから推定したところ、54人は避難元の建物が流失したり、倒壊するなどの被害はなかった。「結果的に」ではあるが、この54人は避難行動を取らなければ犠牲にならなかったといえるという。 しかし、こうした結果を基に、単純に「避難行動を取る必要性がなかった(のに避難行動を取った)」「自宅にとどまったほうがよかった」と言えないことには注意する必要がある。というのも、犠牲者の避難元は、ハザードマップなどで見ると、土砂災害や浸水が想定されていたり、また、その近くだったりするケースが多いためだ。「風水害の避難を考えるときに難しいのは、誰にも、どんな時にも当てはまる正解はないということ」を表した結果といえそうだ。 それでも、避難行動に危険が伴うという今回の牛山教授の分析結果は、「避難の呼びかけのタイミング」や「自治体から避難に関する情報が出た時にどのような行動を取ることが良いのか」ということを考える時に、大変重要になる。少なくとも、風水害の場合は「自宅などを離れて避難場所に行く『立退き避難』が必ずしも正解ではない」ということが数字として示されたのは、大きな意味があるといえるだろう。