津波警報を“目的外利用” 気象庁の決断は何が良かったのか? トンガ沖噴火から考える「避難情報廃止論」
今年1月15日。南太平洋・トンガ諸島にある「フンガトンガ・ハーパイ」と呼ばれる海底火山で大噴火が発生しました。この噴火の影響で、日本でも潮位の変化を観測しましたが、通常の津波では考えられない現象だったこともあり、気象庁が最終的に津波警報・注意報を発表するまでには時間を要しました。 【写真】「津波警報=避難指示」だけなら避難情報なんていらない?(後編) 気象庁の長谷川直之長官は噴火後の1月19日の定例記者会見で、「結果的に情報が遅れたことについて何か思うところはあるか」という記者からの質問に「知らない、分からない現象だということであったにせよ、私たちは情報提供して、みなさんのくらしや命を守るという立場。残念なことだと受け止めています」と答えています。 しかし、今回の一連の気象庁の判断について、災害情報に詳しく、「避難情報廃止論」という発表で話題を呼んだこともある東洋大学理工学部の及川康教授(災害社会工学)は「反省点はあるものの、心強く感じた」と言います。そして、今回の気象庁の行動は、自治体が避難情報(避難指示など)を発表する時の大きなヒントになると考えているようです。及川教授に寄稿してもらいました。
「初めて経験する」事態
南太平洋・トンガ諸島の海底火山で大噴火が発生したのは日本時間で2022年1月15日の午後1時ごろだった。その後、トンガに近い洋上の観測点で潮位変化が小さいことなどから、気象庁は午後7時すぎに、「若干の海面変動が予想されるが、被害の心配はない」と発表した。通常の津波と同じように事態が進展するのであれば、この判断は決して間違いではなかったはずである。 しかし、実際は筋書き通りには進まなかった。発表からおよそ1時間後の午後8時ごろから、日本各地で予想よりも2~3時間早いにもかかわらず潮位変化を観測。通常の津波であれば説明がつかない。従来の筋書きとはまったく異なる、「初めて経験する」事態が進展していたのである。 午後11時以降には津波警報の基準となる1m超の潮位上昇を観測。通常の津波ならば、トンガから遠く離れた日本のほうが、トンガに近い洋上観測地点より潮位上昇が大きくなるなどという事態は説明できない。しかし、その説明できない事態が起きている。つまり通常の津波ではなかった。 気象庁は16日午前0時15分、全国各地に津波警報および津波注意報(以下、2つあわせて“津波情報”と呼称)を発表したが、この時、すでに想定外の潮位変化の観測から約4時間が経過していた。