「返ってきた言葉はひどいものでした」2度傷つけられる犯罪被害者 「心情等伝達制度」の光と影 #令和の人権
大事なのは結果の傾向を整理して被害者遺族に周知すること
松永さんの代理人を務める弁護士の髙橋正人さん(68)は、犯罪被害者側の支援を長年、務めてきた。髙橋さんは、心情等伝達制度が始まる前から、被害者や遺族にとって、メリットとデメリットがあることを指摘してきた。 「私は、殺人事件の被害者遺族と、交通事故の被害者の両方で、たくさんの事案を経験してきました。その経験のなかで、二次被害になるようなひどい返事が(加害者から)返ってくるであろうということは、制度ができる前からわかっていました。一言でいうと、故意の凶悪犯罪の受刑者に対して、この制度で被害者の心情を伝えることは、受刑者の矯正という点では、多くの効果は期待できません。たまにまともな回答があるかもしれないけれど。一方で、交通事故の加害者に対しては、半分以上、意味があると思います」 そうキッパリと言う。故意犯といっても、計画性のあるものから、突発的なものまでさまざまだ。 「殺人などの凶悪犯の場合、ご遺族のお気持ちは、『こちらの気持ちを伝えたり、あなたの気持ちを聞いたりしたからといって、殺された家族の命が戻ってくるわけではない。だから早く死んでせめてもの償いをしてくれ』というところにあります。もちろん、聞きたいという人もいるかもしれないけれども、(納得できる返事が返ってくるという)期待は薄いはずです。一方、交通事犯は過失犯が多く、わざと命を奪ったわけではない。悪質な危険運転致死を除けば、被害者や遺族の半分以上が、加害者の心情を聞きたいと思っていると思います」 髙橋さんが、凶悪犯に対してはあまり意味がないと言うのは、うそにまみれた弁明や、ほとんど反応らしい反応もせず、遺族に敵意すら向けてくるようなふてぶてしい態度を、法廷で数えきれないほど見聞きしてきたからだ。 ただし、制度を否定するわけではない。大事なのは「統計を取ることだ」と話す。 「被害者や遺族の選択肢は残しておかなければだめです。どんな答えが返ってこようが聞きたい、という人がいるから。ただし、『殺人などの凶悪犯の場合はこういう答えが返ってくる可能性が高い』ということを周知してほしい。過失犯はこうでした、凶悪犯の場合はこうでしたというふうに、代表的な意見として何かに載せるとか。制度を利用した人にアンケートを取って、大変気持ちが救われた、少し気持ちが救われた、どちらともいえない、やや傷つけられた、ひどく傷つけられた、みたいな形で選択肢を用意して、その結果を、白書のような形で紹介するのもいいかもしれない」 制度開始から1年の現在、受理件数や事件類型別の利用件数が発表されているが、髙橋さんはより詳しく「殺人」「傷害」「傷害致死」「過失運転致死傷」「危険運転致死傷」「性犯罪」などと分けて、どれくらいの利用があったか、どのような結果になったかを公表することが必要だ、と強調する。 「法務省の目的は、被害者のためである面もあるけれど、実際は加害者の矯正です。それ自体は別に隠されておらず、法務省自身もそう言っていますが、報道される方も含めて、そのようには伝わっていない。法務省が責任を持って、制度を利用する被害者に、事前に説明をすることが大切です。『被害感情が和らぐ』などという一刀両断の誤ったイメージを、社会に伝えられるのは困る。松永さんにはその懸念は伝えたし、松永さんもそういうことになったらまずいと、最初からわかっていました」 ◇ 第2回の記事では、「生命事犯」と呼ばれる事件の遺族の思いや刑務官に事件を伝える意味、制度を所管する法務省矯正局にその目的などを聞く。 --------- 藤井誠二(ふじい・せいじ) ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。著書に『「少年A」被害者遺族の慟哭』『殺された側の論理』『黙秘の壁』『沖縄アンダーグラウンド』『路上の熱量』など多数。近著に『贖罪 殺人は償えるのか』 --- 「#令和の人権」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。日常生活におけるさまざまな場面で、人権に関するこれまでの「当たり前」が変化しつつあります。新時代にフィットする考え方・意識とは。体験談や解説を通じ、ユーザーとともに考えます。