まだ生成AI「否定派」が多い教育現場のリアル、教員の「忙しすぎ問題」解決できるか?
生成AI普及の起爆剤は「就職活動」のワケ
学生による活用について、伊藤氏はさらなる普及が進むとみている。特に、学生の就職活動(就活)を契機として急速に広がっていくと予測する。 「スマホの普及も、実は学生の就活がきっかけの1つでした。ガラケーでは閲覧できない就活サイトを外出先でも見られるようにするため、学生たちはスマホを手にし始めましたが、それがスマホ普及の起爆剤の1つとなりました。生成AIも同じように、就活対策をきっかけに大学生に一気に普及が進んでいる段階とみています」(伊藤氏) 現在の就活で学生が生成AIを使うとしたら、エントリーシートや小論文などの作成が考えられるが、個性の乏しい現状の生成AIの文章をそのまま使って就活で成功を収められるとは限らない。しかし今後は、生成AIのパーソナライズ機能が進化し、個人の性格や経歴に応じたアドバイスや文章を生成するようになる可能性がある。 「今の生成AIによる文章は無個性で、どの学生が使っても似たり寄ったりの表現になりがちです。そのため、生成AIを使って就活に臨んでも、どこか物足りなさを感じることも多いかと思います。しかし、将来的に個々の学生に合わせてパーソナライズされた生成AIが進化すれば、大きく事情が変わってくるはずです」(伊藤氏) また伊藤氏は、今後は学生がスマホなどのモバイルデバイスを通じて生成AIに対して音声でプロンプトを入力する機会が増えると考えている。 「今の若者はマイク付きイヤホンを用いて電話をするなど、恥ずかしがらずに気軽に公衆の場で話す人が多くなりました。生成AIへの音声入力も特別な抵抗なく行うようになるでしょう」(伊藤氏) 一方、教員側ではどうだろうか。生成AIを教育に活用することについては、いまだ賛否が分かれるところだが…。
教員は「使いものにならない」など否定派も多い
伊藤氏は、学内で行われた生成AIの事例報告会における教員の反応について次のように振り返る。 「特定の学問分野の教員からは、『生成AIは使ってほしくない』『生成AIの文章は使い物にならない』といった声が寄せられました。このような否定的な意見が出るのは、学問分野による事情も影響していると考えます。たとえば、人間の深い思考や価値観が求められる分野では、生成AIの出力が不十分に感じられることも多いため、活用に慎重にならざるを得ない面があるのではないでしょうか」 また一部の理系分野においても、生成AIの利用について一定の制限が必要とされる場面もある。特に数学やプログラミングなど、正解か否かが明白となる出題が多くなる分野では、生成AIを用いた不正利用が懸念され、手放しで利用を認めることが難しい現状がある。 先の調査においても「教育・学習における可能性が広がると思う」「教育・学習上の効果が上がると思う」という問いに対し、教員は学生よりも否定的にとらえている人が多いという結果が出ていた。 一方で、生成AIが進化するにつれてその出力がより日本語の特性や日本の文化に適応することが期待されており、将来的には特に文系分野での利用に向けて成長の余地があると考えられる。 「生成AIが日本語の文化や特性を十分に学習すれば、国産AIの活用等が文系分野での教育に大きな影響を与えるでしょう」(伊藤氏) これまで伊藤氏は、勤務先以外の大学での教員向けの研修会も実施しており、生成AIに関する情報共有の場を積極的に設けている。ただし、プロンプトエンジニアリングに関する教育はまだ広がっておらず、教員が生成AIを活用する際にどう効果的に質問すれば良いのか、また学生の不正利用をどのように見分けるかといった点についての課題は残っているようだ。