開局60周年!テレビ東京のさらなるチャレンジ
テレビ東京ならではの『シナぷしゅ』めぐる展開
最後に、テレビ東京ならではの番組を紹介しよう。朝7時半から30分間、帯番組として放送している『シナぷしゅ』だ。0~2歳児向けの動画コンテンツを放送しているのだが、独特のビジネス展開が行われている。番組を企画した飯田佳奈子プロデューサーに話を聞いた。 「2018年に私が第1子を出産し、育休をとって子どもと一緒に過ごした時に、その子どもと一緒に観る番組というと、NHK・Eテレの番組だけだったのですね。一方でYouTubeには素人の方による手作り動画がたくさんあげられ、何十万回も再生されていました。子育てには動画コンテンツが欠かせないと感じ、そういう番組を放送して同時に配信も行うことができないかと思いました。 例えば『アンパンマン』のアニメは3歳くらいからの子が観る番組で、ゼロ歳児が観る番組はほとんどないのです。実際に子育てをしていると、例えば洗濯をしている時にちょっとだけテレビの前にいてくれると助かる、そういう時に観るコンテンツがあったらと思ったのです。 そこで育休を終えて復帰した後に企画書を提出し、それが通って2019年12月にトライアル放送を1週間、5本行いました。幸い評判もかなり良かったので、2020年4月からレギュラー番組として『シナぷしゅ』が始まったのです」 朝7時台にこれを月~金の帯番組として編成するのがテレビ東京ならではで、視聴率という観点からいうと、そもそも3歳以下は視聴ターゲットとして想定されていないという。 「配信を同時に行うというのが大事な点で、YouTubeに公式チャンネルを立ち上げたのですが、現在登録者が50万に届きそうな勢いです。 その配信収入のほかに、私は最初から広告需要もあるだろうと考えたのですが、赤ちゃん向け商品やサービスを提供する会社にたくさんスポンサードいただいています。キャラクターグッズや絵本など商品化の収入も大きくなっています」(飯田プロデューサー) 「2023年は映画も作りまして、5月に全国約150館規模で公開し、16万人動員という好成績を収めました。『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』というタイトルでしたが、ベビーカーがずらっと映画館に並び、新宿ピカデリーが満席になりました。全国でお客さんが途切れることなく入り、興行としても成功したため、8月上旬までのロングランになりました。 最初は皆さん、乳幼児を映画館に連れていくのは恐る恐るだったと思いますが、ネットで評判が広がり、赤ちゃんでも観られる工夫がなされていたというのでどんどんお客さんが増えていきました。最終的に動員が16万人を超えました。 この映画はゼロ歳児からも一律1000円をいただいたのですが、赤ちゃんが主役だというメッセージにもなったし、ゼロ歳児にも席を確保したことで、そこに荷物を置けるし、隣の方とのディスタンスを保てると好評でした。 上映は約40分でしたが、入場者プレゼントとしてタンバリンを配り、騒いでもいいし泣いてもいいよというメッセージを込めました。劇場はすごく賑やかでしたが、家族連れの温かい空気の中で、皆さん新しい映画体験をされたと好評でした」(同) 9月には渋谷でコンサートも行った。 「渋谷の街にベビーカーがずらっと並ぶという光景でした。約2000席の定員枠で2回公演を行い、チケットが即日完売、満員御礼でした。11月の横浜での『テレ東60祭』でもコンサートを行いましたが、チケットの申込数は倍率10倍以上という人気ぶりでした。東京以外からも泊まりがけでご家族が訪れていました。 映画公開の時に劇場でアンケートをとったのですが、多かったのは0歳4カ月くらいから2歳手前くらいのお子さんで、私たちが想定していたターゲットにどんぴしゃで当たっていました。放送と配信とビジネスという歯車がうまくかみ合って大きくなっている気がします。 赤ちゃん向けの動画コンテンツはネットにたくさん上がっていますが、最初からネットに触れさせるというのは親にとっては不安もあるでしょうし、やはりテレビがいまだにすごく安心感を持たれているという事情があると思います」(同) 飯田さんは22年に第2子を出産し、子育てをしながらプロジェクトを担っているという。ちょうど映画公開の準備で多忙を極め、育休をとる余裕がなかったというが、こんなふうに新しいマーケットを開拓していけるというのも、小回りのきくテレビ東京ならではかもしれない。