金曜21時台ドラマ枠新設、フジテレビの新たな戦略
2023年10月改編でフジテレビはドラマ枠を拡大した。 54年ぶりとなる金曜21時の新ドラマは幸い好調なスタートを切った。 配信や映画との連動も意識したコンテンツ展開は今後どうなるのか。(編集部)
ドラマ新枠開設と配信との連動
フジテレビの2023年10月改編の目玉は、54年ぶりとなる金曜夜9時からのドラマ新枠の開設だった。スタートしたのはムロツヨシさんと平手友梨奈さんが共演する『うちの弁護士は手がかかる』だ。幸いスタートは好調で、関係者もホッとしたと思われるが、まずは新枠開設の狙いと、なぜ金曜9時だったのかについて、編成制作局の臼井裕詞局長補佐兼ドラマ・映画制作センター室長に話を聞いた。 「私たちの強みというのはやはりコンテンツ制作力なんですね。コンテンツ強化が急務になるなかで、ドラマは視聴率に限らず、いまや配信を含めてマネタイズしていけるコンテンツです。 新枠を作るという議論は1年前から始め、半年前から具体的な準備に入りました。ドラマは視聴習慣が大事な要素ですから新枠開設は大変なのですが、新たなチャレンジをするということでは楽しい作業でもありました」 これによってフジテレビはドラマが基本4枠となり、そのほか月曜夜10時の関西テレビ制作枠や土曜深夜の東海テレビ制作枠などを含めるとかなりの本数となる。金曜夜9時は、他局のドラマ枠とぶつからないことも想定して枠を決めたという。それぞれの枠の位置づけはどうなっているのか。 「月曜夜9時のいわゆる『月9』は、ラブストーリーに限らず良質なエンターテインメントを届けるという位置づけです。 水曜10時はニューヒーローが活躍できるドラマ枠、木曜10時は大人の鑑賞に耐える良質なドラマ。そして金曜9時は映画化していけるようなエンターテインメント枠として普段やらないような新しいことにチャレンジし、未来のタネを発掘していこうという位置づけです。 10月にスタートした『うちの弁護士は手がかかる』は、名バイプレイヤーと言われてきたムロツヨシさんを主役に据え、平手友梨奈さんとコンビを組む異色のキャスティングも話題になっています。 おかげさまで好調で、個人視聴率も回を重ねるごとに右肩上がりで伸びています。配信も毎話200万再生くらい回っています」(臼井局長補佐) 配信数が歴代の民放ドラマの記録を次々と塗り替えたと話題になったのは22年10月期に放送された木曜劇場『silent』だった。テレビドラマにとって配信の存在は欠かせないものになっているが、フジテレビでは最近も、水曜10時のドラマ『パリピ孔明』で新しい試みを行っている。『パリピ孔明』は諸葛孔明がハロウィン真っ只中の渋谷に転生するというマンガ原作のドラマだが、配信を意識した取り組みを行っている。 「これは民放初の取り組みですが、『パリピ孔明』はテレビで1話が終了したら第2話を有料のFODプレミアムで先行配信する。口コミでその話題が広まった頃にテレビで第2話を放送し、またその直後に第3話を先行配信するという試みです。おかげさまでコンスタントに100万再生回数を確保しています。 従来はテレビ放送の後に配信と考えられていたのを、柔軟に考えていく。若い人たちへの見せ方を含めてドラマの話題をどう作っていくか。テレビの視聴率だけがコンテンツの価値だった時代は終わりつつあると思います。 『silent』は大ヒットドラマと思われていますが、テレビの個人視聴率は約4%前後でした。でも熱狂的なファンがついて、無料見逃し配信が1話平均600万再生、全話合わせると6000万再生を超え民放歴代1位になりました。2023年に入ってからもいろいろな賞を受賞していますし、DVDなどのパッケージもすごく売れています。 それに迫る配信再生数を記録したのは23年4月クールに放送した『あなたがしてくれなくても』でしたが、これは『昼顔』のチームが制作したセックスレス夫婦を描いたドラマでした。お茶の間では観にくいと、テレビでなく配信でこっそり視聴する人が多かったのでしょうね。 もちろん視聴率を第一に考えなくてはならないのですが、コンテンツの価値ということではいろいろな考え方があります。今はそれを模索している段階ですね。 AVODという広告付き無料配信でいうと、フジテレビは23年1~10月で民放1位です。若い人たちの間ではむしろドラマはテレビでなく配信で観るというのが一般的になっています。配信が伸びることでFODの会員も伸びているし、TVerの有料広告も伸びています。 ドラマの作り手側の意識も変わっており、フジテレビのドラマでは木曜10時の『いちばんすきな花』も個人視聴率で言うと2・6%くらいですが、毎話300万~400万再生を記録しています。ちなみに、このドラマは『silent』のチームが作っています」(同) 臼井さんの部署名がドラマ・映画制作センターということでもわかるように、コンテンツを多メディアで展開していくという戦略もフジテレビの得意なところだ。最近の話題といえばマンガ原作の『ミステリと言う勿れ』で、ドラマで大ヒットさせた後、23年公開の映画も大ヒットとなった。 「22年の1月クールにドラマを放送し、視聴率も配信も良かったのですが、23年9月に映画を公開し大ヒットしました。映画公開にあわせてフジテレビではスペシャルドラマも放送しました。 FODでもオリジナルドラマを制作しており、私たちは地上波だけでなく、映画や配信ドラマの作り手でもあるコンテンツファクトリーと考えていくべきと思っています」(同) フジテレビ製作の映画としては現在、『翔んで埼玉』の続編が話題になっている。この映画や『東京リベンジャーズ』のようにドラマから映画という流れでないヒットもあるが、逆に映画のヒットを受けてドラマ化という流れもあり得る。 2024年1月期のドラマも既に発表されている。月曜9時は、永野芽郁・山田裕貴主演の『君が心をくれたから』。いまや実力を評価されている永野芽郁が初めて「月9」の主役を務めると話題になっている。水曜10時は「3時のヒロイン」の福田麻貴が主役を務めるコメディ『婚活1000本ノック』、木曜10時は小芝風花主演の時代劇『大奥』、そして金曜9時は桐谷健太主演の『院内警察』だ。