具合が悪いのになかなか電話が繋がらずイライラ…「病院の予約」への「AI導入」が医療機関にもたらす変革
飲食店の電話予約システムを参考に
このように電話応答について試行錯誤しているなかで見つけたのが、AI技術を搭載した電話自動応答システム(IVR:Interactive Voice Response)でした。居酒屋などの飲食店の予約電話の応対で、使われているところもあります。 AI予約電話の開発と運用 筆者は、医療従事者用のコミュニケーションインフラを提供する事業者の方に問い合わせ、患者さんの声と機械音声のやりとりをテキスト化して参照できる、AIを搭載した電話自動応答システムを導入することになりました。 それから、実際の運用から基本的な仕様まで協議を行った結果、電話交換手が行う1次対応のうち、まずは定型的な要素の多い「予約変更・キャンセル」(全体の約1割)に限ってシンプルな電話シナリオを運用することに。 電話交換手の業務の一部をAI電話に置き換えるだけにして、AI予約電話が対応した結果を見ながら各診療科のメディカルクラークが折り返し電話をかける形です。電話自動応答ですから、原理的には24時間受け付けることも可能です。しかし、うまく予約できない場合には、すぐに対応できる病院の受付時間だけにするなど、基本的なAI予約電話のコンセプトを固めていきました。 AI予約電話に関して、さまざまな考察をしてきた経験を踏まえますと、すべてをAIにやってもらうのは、まだ現時点ではうまくいかないでしょう。定型的な部分だけをAIに任せ、さまざまなニーズ・例外的なニーズを持つ患者さんに対しては電話交換手やメディカルクラークが臨機応変に対応するという「AIと人のハイブリッド」で業務設計するのがもっとも効力の感じられるやり方だと思われます。
AI予約電話の稼働による効果と今後の展望
その後、院外の方にAI予約電話をモニターとしてデモ機に触れていただき、年代別に合計177枚のアンケートを取得しました。 アンケート結果のポイントを挙げますと、「AI電話に対する抵抗感」については、AI予約電話の体験前後で「抵抗感なし」が71.8%から94.4%に改善するという明らかな態度変容が見られました。また、「繋がりやすいAI電話」と「繋がりにくい有人対応」のどちらを選ぶかという設問に対して、60代以上のモニターの82.8%がAI電話を選ぶと回答。 AI予約電話が正式に稼働したのは2024年に入ってからです。1月からプレ稼働を行い、2月から本稼働に入ったのですが、ほとんどクレームもなく、1ヵ月強で安定運用に入ることができました。 導入直後で印象に残っているのは、2024年2月5日の大雪の日のことで、当日は交通機関にも大きな影響が出ました。それに伴い来院の予約変更やキャンセルの電話が殺到し、通常の倍以上の件数が集中したのですが、導入したばかりのAI予約電話が問題なく捌ききってくれたのです。思いがけないかたちでAI予約電話の実力を知ることができました。 現在、AI予約電話の自動応答時間が平均3分、それからメディカルクラークが電子カルテを確認するなどの折り返し電話の準備に平均1分、患者さんとの通話から電子カルテ入力までに平均2分ですから、当院のスタッフが1件の電話対応にかける時間が平均10.5分から3分に劇的に改善したことになります。また、2022年6月時点で68%だった代表電話の応答率は、業務フローの変更の効果も相まって、2024年5月時点で安定的に9割以上を維持できるようになりました。 AI予約電話の開発費用やシステム使用料などがかかりましたが、電話業務にかかる人件費の圧縮分もありますので、すでに釣り合うラインまで持って行けるだけの見通しが立っている状況にあります。 導入後に行っているのは、主にAI学習とシナリオのチューニングです。 AI学習という点でいえば、医療用語の部分です。「産科」は病院内ではほとんど間違えない言葉ですが、「参加、傘下」として認識することもありました。また、「お産、周産、マタニティ」などが「産科」の類語であることも設定することで精度を高めています。 それから音声認識の特性で「はい」といった短い言葉を認識できないことがあります。そこでシナリオを調整して、利用者に「はい」ではなく「はい大丈夫です」と答えさせるように促しています。このような設定を加えることで誤謬率を下げて、有人対応に回る率を下げる努力をしています。