ひとりの人を応援したい。読書の時間が約束された店「fuzkue」、10年間の静かな奮闘を店主が語る
「フヅクエは広がりたがっている」。せっかく読書って楽しいので
10年、そして下北沢店での心の変化を経て、阿久津さんはこう語る。 「(フヅクエという場所が)私物だったのが、ある種の公共性を帯びてきたというか……そんな感覚がちょっとある。負わなくてもいいんだろうけど……責任みたいな感じですね。フヅクエを広げたいっていうより、フヅクエが広がりたがっているっていう感じがします。いろんな人から、フヅクエのような場所がもっと近くにあればいいのにな、みたいな言葉は本当にたくさんいただいていますから」 見たいのは、ひとりひとり独立した没頭を持ちながらも、それでいて言葉のない連帯があるような「美しい光景」。そして、収斂していくのは「幸せな読書の総量」を増やすという軸。 「言うまでもなく人それぞれですが、フヅクエで本を読むことは、ほかで読むより読書に集中できる率って高いと思うんですよね。そうすると本を楽しめる率もぐっと高めていると思う。ということは、読書っていいもんだなってあらためて実感できる率も、この場所は高めているはず。ちゃんと楽しい体験ができると、そこ(読書)に戻ってくる率が上がると思うんですけど、単純に読書文化にとってそれはいいことだよなあって思いますね」 「映画館で見たからこそ楽しめた映画ってあると思うんですけど、フヅクエが誰かのどれかの読書にとって、そういう場所であれたらな、と思います。せっかく楽しい本であるならば、楽しんで読まれてほしい。一番シンプルな願いはそこです。その舞台となるのは家でも通勤電車でももちろんどこでもいいけれど、『困ったときは、フヅクエがあることを思い出してください。フヅクエはいいぞ』、そんな気持ちですね」
インタビュー・テキスト by 今川彩香 / 撮影 by 山口こすも