ひとりの人を応援したい。読書の時間が約束された店「fuzkue」、10年間の静かな奮闘を店主が語る
初台でスタート。「本の読める店」になるまでの試行錯誤と変遷
まずは都内での物件探しから始まった。物件を案内してくれた不動産会社のスタッフにお店の動機を説明すると「趣味の店っすか?」と聞かれたこともあった。 内見を経て、初台という場所と物件を気に入った。こうして、2014年10月17日、フヅクエはオープンした。名前の由来は、読書や物書きなどに使う「文机」から。スタート地点は読書特化型というより、「一人の時間をゆっくり過ごしていただくための静かな店」だった。ここから変遷を経て「本の読める店」になっていく。 阿久津さんは、オープン初日のことを、こう振り返る。 「初日から『いいもんだな、僕がやりたかったことはやっぱりいいものだぞ』という気持ちはありました。だから、やりたかったことの軸は初日からあったと思うんです。そこからはディスリスペクトな空気が入り込まない微調整をひたすら続ける感じ、とでも言うのでしょうか」 開店から半年くらいは、お客さんに値段を決めてもらうという「支払い額自由」制だったが、かえって店にいづらいのではないかと考え直し、メニューに値段をつけるように。翌年には、心置きなくゆっくり過ごしてもらえるように、オーダーと滞在時間によって値段が変わる「料金変動制」を導入した。この制度も、年月をかけてブラッシュアップされていく。 大きな改革というとほかにも、タイピングの禁止――つまり、パソコン作業の禁止、がある。これは特に、苦渋の決断であったと阿久津さんは話す。店の売り上げ的にも無視できない割合を占めていたし、フヅクエという空間を好いて来てくれるお客さんが来なくなってしまう可能性もあったからだ。しかしそれでも、2017年に決断。読書特化型の空間へと変化をとげたのだった。 「自分が実現したい空間――当たり外れなく、いつ来ても快適に穏やかな気持ちで本が読める空間を実現するためにはやむなし、みたいな」 また、実務的な話として、スタッフが増えていくにつれて、ルールを明確化しておく必要もあった。そういったさまざまな試行錯誤は、結果として「幸せな読書の時間の総量を増やすため」という軸に収斂していく、と阿久津さん。 「結果として、やっぱり自分が一番に共感を寄せられて、本当に応援できるのは読書だったなというか――読書と、それ以外がなかなか共存できないんだな、難しいなみたいな考えになっていった。読書以外の、仕事や作業をしたい人のための場所はほかにいくらでもあるしな、みたいな」