ひとりの人を応援したい。読書の時間が約束された店「fuzkue」、10年間の静かな奮闘を店主が語る
店主の考え方に変化も。フヅクエ下北沢の出店という契機を経て
現在、フヅクエは初台店と、商業施設「BONUS TRACK」内の下北沢店、そしてフランチャイズの西荻窪店(現在はお休み中、2025年1月10日に再開予定)の3店舗がある。 「自分の街にもフヅクエがあったら」。お客さんからそんな声が上がる機会が次第に増えていく。そんななかで声がかかり、出店を決断。コロナ禍にあった2020年、フヅクエ下北沢がオープンした。「BONUS TRACK」内には「本屋B&B」と「日記屋 月日」があり、書店のすぐそばのフヅクエは、阿久津さんがかねてからやってみたかった試みでもあったという。 商業施設という場所柄、どういう店か知らずにフヅクエに訪れる人も多い。そんなお客さんたちと接するうち、阿久津さんの考え方にも変化が生まれた。 「下北沢に店を出すまでは、本を読む人と、本を読まない人っていう切り分けをしていたんですよね。この店に関係ある人と関係ない人に分けていた。おしゃべりしながら入ってきた2人組の方に対して『はいお帰りください~』みたいな。それは(フヅクエの)なかにいる人たちに対して『あなたたちの時間を守っていますよ』というパフォーマンスにもなると思っていた。時間がたって、それがもう必要なくなったこともあるかもしれないけど……。より開かれた環境である下北沢に出店したことで、いま本を読みたい人、いまは本を読みたくない人、っていう考え方ができるようになった。そうすると人間全員、いつかは本を読みたいかも知れない」 「例えば、お店に来て、机にパソコンをまず置いたお客さんがいたとき。『じつはここはパソコンはダメで……』と説明をする際にも、『今のあなたはここではない場所に行ったほうがいいと思う。だけどいつかゆっくり本を読んで過ごしたくなったら、そのときはここを思い出してくれたら僕は本当にうれしい』ということを、心から思えるようになったんです。『また来てください』って本心から言って見送れるようになった」 お客さんは本を読む人、本を読まない人はそうではない――という考え方から、人類全員がフヅクエでの時間をいつか求めるかもしれないと思えたことは、阿久津さんにとって大きな変化だった。 「(下北沢出店以前は)もうこれで出来上がったんだろうなみたいな、完成形はこれなんだろうなみたいに思っていたので。まだまだ、こんなにも変化の余地があったんだ、こんなふうに開けることがあるんだみたいな、と」